前職の給与、転職先に伝える?「源泉徴収票」の役割と年収交渉のポイント
転職活動の面接や入社手続きの際に、採用担当者から「前職の給与(年収)はどのくらいでしたか?」と尋ねられたり、「前職の源泉徴収票を提出してください」と求められたりすることがあります。「正直に答えるべき?」「給与額を知られると、新しい会社の給与が決まる上で不利になるのでは?」「源泉徴収票の提出は必須なの?」など、多くの方が疑問や不安を感じるのではないでしょうか。
この記事では、転職時に前職の給与や源泉徴収票について尋ねられる理由、それらに対する適切な対応方法、そして年収交渉を有利に進めるためのヒントなどを分かりやすく解説します。
なぜ企業は「前職の給与」や「源泉徴収票」について知りたいのか?
企業が応募者の前職の給与や源泉徴収票に関心を持つ背景には、いくつかの理由があります。
- 自社の給与水準との比較・調整: 応募者の希望年収やこれまでの給与水準と、自社の給与テーブルや同じような職務・経験を持つ社員の給与水準とを比較し、採用時の給与額を決定するための参考にします。
- 応募者の市場価値の把握: 前職の給与は、その時点での応募者の市場価値を測る一つの客観的な指標となり得ます。
- 入社後のミスマッチ防止: 応募者の希望年収と、企業が提示できる給与額との間に大きな乖離(かいり)がある場合、入社後に待遇面での不満が生じ、早期離職に繋がる可能性があります。それを未然に防ぐために、事前に確認しておきたいという意図があります。
- 年末調整のため(源泉徴収票の場合): 年の途中で転職した場合、新しい勤務先がその年の年末調整を行う際に、前職の源泉徴収票に記載された所得額や源泉徴収税額を合算して処理する必要があります。これは税務上の必須手続きです。
- 応募者の自己評価との整合性確認: 希望年収と前職の給与に大きな差がある場合、その理由や根拠(スキルアップ、役職の変化など)について確認し、応募者の自己評価の妥当性を見極めようとすることもあります。
面接で「前職の給与」を聞かれた場合の答え方
面接で前職の給与について尋ねられた場合は、正直に、かつ正確な金額(基本的には年収の総支給額)を伝えるのが基本です。
- なぜ正直に伝えるべきか:
- 内定後に源泉徴収票を提出する際に、申告した金額と大きな差異があれば、信頼を損なう可能性があります。
- 企業側も、ある程度の給与水準を把握した上で、採用の可否や条件を検討したいと考えています。
- 伝えるべき金額:
- 通常は、**税金や社会保険料が引かれる前の「総支給額」**を伝えます。手取り額ではない点に注意しましょう。
- 年収で答えるのが一般的です。月収で尋ねられた場合は、月収額と賞与の有無・金額などを補足すると良いでしょう。
- 残業代やインセンティブなどが年収に大きく影響する場合は、その内訳や変動の可能性についても触れておくと、より正確な情報が伝わります。
- 伝え方のポイント:
- 具体的な金額を伝える: 「〇〇万円です」と明確に答えましょう。「だいたい…」「生活できる程度には…」といった曖昧な表現は避けます。
- 希望年収と合わせて伝える(聞かれた場合): 「前職の年収は〇〇万円でしたが、これまでの経験やスキルを考慮し、貴社では△△万円程度を希望しております」というように、希望額とその根拠をセットで伝えるのが理想的です。
- 謙虚な姿勢も忘れずに: 「前職の給与は〇〇万円でしたが、給与に関しましては、これまでの経験やスキルを総合的にご判断いただき、御社の規定に従わせていただきたいと考えております」といったように、企業の規定を尊重する姿勢を示すことも、状況によっては有効です。
- 過度に卑下したり、逆に過剰に高く見せようとしたりしない: 正直な金額を伝え、その上で自身のスキルや経験に見合う評価を求めるというスタンスが大切です。
「源泉徴収票」の提出:いつ、なぜ必要?
源泉徴収票は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に会社から支払われた給与・賞与の総額や、源泉徴収された所得税額などが記載された書類です。
提出が必要な主な理由:「年末調整」のため
年の途中で転職した場合、新しい勤務先がその年の年末調整を行うために、前職の源泉徴収票が必要になります。年末調整は、年間の正しい所得税額を計算し、毎月の給与から源泉徴収された所得税額との過不足を精算する手続きです。
新しい会社は、あなたがその年の途中で他の会社から給与を得ていたかどうか、そしてその金額を知ることができません。そのため、前職の源泉徴収票を提出することで、転職先の会社があなたのその年の正確な総所得を把握し、適切な年末調整を行うことができるのです。
提出する源泉徴収票は「その年の分」
新しい会社に提出するのは、**「その年の1月1日から前職の退職日までに支払われた給与等に関する源泉徴収票」**です。前年以前のものは通常不要です。
発行タイミングと入手方法
- 退職時に会社から交付: 会社は、退職者に対して退職日から1ヶ月以内に源泉徴収票を交付する義務があります。通常、最後の給与支払い後などに郵送されてくることが多いです。
- 紛失した場合: 前職の会社の人事・経理担当者に連絡し、再発行を依頼しましょう。
提出したくない場合は「自分で確定申告」
もし、前職の給与額などを新しい会社に知られたくないといった理由で源泉徴収票を提出したくない場合は、新しい会社にその旨を伝え、年末調整を辞退し、翌年に自分で確定申告を行うという選択肢があります。
ただし、自分で確定申告を行う場合でも、前職の源泉徴収票は所得を証明する書類として必ず必要になります。転職先に提出しないというだけで、入手する必要がなくなるわけではない点に注意が必要です。また、確定申告の手間も考慮に入れる必要があります。
転職時の年収交渉:知っておきたいポイント
前職の給与は、新しい会社での給与を決める上での一つの参考にされますが、必ずしもそれが全てではありません。あなたのスキルや経験、そして市場価値に基づいて、年収交渉を行うことも可能です。
- 交渉のタイミング: 一般的には、内定が出た後、労働条件が提示されたタイミングで交渉を行うのが適切とされています。面接の初期段階で年収の話ばかりをするのは、条件面しか見ていないという印象を与えかねません。
- 希望年収の根拠を明確に: なぜその年収を希望するのか、これまでの実績やスキル、市場価値などを踏まえて、具体的な根拠を示しましょう。
- 企業の給与水準をリサーチしておく: 応募企業の業界や規模、職種における一般的な給与水準を事前に調べておくことで、現実的な交渉が可能になります。
- 最低希望額と理想額を設定しておく: 交渉の落としどころを見据え、譲れない最低ラインと、できれば実現したい理想の金額を自分の中で設定しておきましょう。
- 転職エージェントの活用: 転職エージェントを利用している場合は、キャリアアドバイザーがあなたに代わって年収交渉を行ってくれることがあります。プロの視点からの交渉は、個人で行うよりも有利な結果に繋がる可能性があります。
- 謙虚さと柔軟性も大切: 高圧的な態度や、一方的な要求は避け、企業の状況も理解しようとする姿勢が重要です。場合によっては、入社後の実績に応じて昇給を目指すといった、長期的な視点も持ちましょう。
まとめ:前職の給与は正直に、そして未来の可能性をアピール
転職活動において、前職の給与や源泉徴収票について尋ねられることは、ごく自然なプロセスの一部です。企業側の意図を理解し、正直かつ適切に対応することが、信頼関係を築き、スムーズな選考と入社手続きに繋がります。
前職の給与額は、あなたのこれまでの評価の一つの指標ではありますが、それが全てではありません。大切なのは、これまでの経験で培ってきたスキルや実績を具体的に示し、新しい会社でどのように貢献できるのか、そして将来どのように成長していきたいのかという、あなたの「未来の可能性」を力強くアピールすることです。
この記事で紹介したポイントを参考に、自信を持って年収に関する質問に対応し、納得のいく条件で新しいキャリアへの一歩を踏み出してください。