転職時の「確定拠出年金」どうなる?手続き・移換・注意点を完全ガイド!
転職は、新しいキャリアへの期待とともに、様々な手続きが必要となる時期です。その中でも、将来の資産形成に関わる「確定拠出年金」の取り扱いは、多くの方が気になるポイントではないでしょうか。「今の会社で入っている企業型DCはどうなるの?」「iDeCoは転職先でも続けられる?」「何か特別な手続きが必要なの?」――そんな疑問や不安を抱えているかもしれません。
確定拠出年金は、ご自身の老後資金を準備するための大切な制度です。転職時には、適切な手続きを行わないと、せっかく積み立てた資産が有効に活用されなかったり、思わぬ不利益を被ったりする可能性もあります。
この記事では、転職に伴う確定拠出年金(企業型DCおよびiDeCo)の取り扱いや必要な手続き、注意点などを、分かりやすく徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたが何をすべきかが明確になり、安心して新しい一歩を踏み出すための一助となるはずです。
まずは基本から!確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)とは?
手続きの話に入る前に、確定拠出年金の基本的な仕組みについておさらいしておきましょう。
確定拠出年金の仕組みと目的:自分の年金を自分で育てる
確定拠出年金は、毎月一定の掛金を拠出し、加入者自身が運用商品を選んで運用し、その運用結果に基づいて将来受け取る年金額が決まる私的年金制度です。公的年金(国民年金や厚生年金)に上乗せする形で、より豊かな老後生活を送るための資産形成を目的としています。原則として60歳以降に、積み立てた資産(元本と運用益)を一時金または年金として受け取ることができます。
「企業型DC」と「iDeCo(個人型)」の主な違い
確定拠出年金には、大きく分けて2つの種類があります。
- 企業型DC(企業型確定拠出年金): 企業が主体となって導入し、従業員のために掛金を拠出する制度です(従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」の仕組みがある場合もあります)。加入対象者はその企業の従業員に限られます。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 個人が任意で加入し、自分で掛金を拠出する制度です。会社員、自営業者、公務員、専業主婦(夫)など、一定の条件を満たせば多くの方が加入できます。
確定拠出年金のメリット(税制優遇など)と注意点(運用リスクなど)
メリット:
- 税制優遇が大きい:
- iDeCoの場合: 掛金が全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。
- 企業型DC・iDeCo共通: 運用期間中の運用益は非課税で再投資されます。
- 受取時: 年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」の対象となり、税負担が軽減されます。
- ポータビリティ(持ち運びやすさ): 転職や離職をしても、積み立てた資産を次の制度(転職先の企業型DCやiDeCoなど)に移換して運用を継続できます(一定の条件あり)。
注意点:
- 原則60歳まで引き出せない: 老後資金形成が目的のため、途中で自由に引き出すことはできません。
- 運用リスクがある: 選択した運用商品によっては、運用成績がマイナスになり、元本割れする可能性もあります。運用は自己責任で行う必要があります。
- 手数料がかかる: 加入時、毎月の運用期間中、給付時などに、運営管理機関(金融機関)や国民年金基金連合会などに所定の手数料を支払う必要があります。
転職したら確定拠出年金の手続きは必須!その理由とは?
転職によって勤務先や働き方が変わる場合、確定拠出年金に関する手続きは基本的に必須となります。
転職による加入資格や制度の変更
- 企業型DCの場合: 退職すると、その企業の企業型DCの加入者資格を喪失します。積み立てた年金資産をどうするか、手続きが必要になります。
- iDeCoの場合: 転職によって国民年金の被保険者種別が変わったり、転職先の企業年金制度の状況が変わったりすると、iDeCoの加入資格や拠出できる掛金の上限額が変更になる可能性があります。そのため、登録情報の変更手続きが必要です。
手続きを怠ると「自動移換」のリスクも
特に企業型DCに加入していた方が、退職後、原則として6ヶ月以内に必要な移換手続きを行わないと、積み立てた年金資産は国民年金基金連合会に「自動移換」されてしまいます。自動移換されると、運用が停止され、管理手数料だけが引かれ続けるといったデメリットが生じるため、注意が必要です。
【企業型DC加入者向け】転職時の手続きと資産の移し替え(移換)
現在、企業の企業型DCに加入している方が転職する場合の一般的な手続きの流れです。
STEP1:退職する会社での手続き(資格喪失の手続き)
まず、退職する会社の人事・総務担当者に、企業型DCの加入者資格を喪失すること、および今後の手続きについて確認します。通常、退職に伴い「加入者資格喪失の手続き」が行われ、運営管理機関(企業型DCの運用を委託している金融機関など)から、年金資産の移換に関する案内や書類が送られてきます。
STEP2:転職先の企業年金制度を確認する
次に、転職先の企業にどのような企業年金制度があるかを確認します。
- 転職先に企業型DC制度があるか。
- 企業型DC制度がない場合、確定給付企業年金(DB)などの他の企業年金制度はあるか。
- 企業年金制度が全くないか。
この確認結果によって、次のステップで取るべき手続きが変わってきます。
STEP3:資産を移換する
退職した会社の企業型DCで積み立てた年金資産は、以下のいずれかの方法で移換(資産を移し替えること)手続きを行います。
- 転職先に企業型DCがある場合:新制度への移換 転職先の企業型DCに、これまでの年金資産を移換することができます。転職先の人事・総務担当者や、新しい企業型DCの運営管理機関に連絡し、移換手続きを進めます。
- 転職先に企業型DCがない、またはiDeCoに移換したい場合:iDeCoへの移換 転職先に企業型DCがない場合や、あえてiDeCoで運用を続けたい場合は、iDeCoの口座を開設(既に持っている場合はその口座)し、そこに年金資産を移換します。iDeCoの運営管理機関(金融機関)に連絡し、移換手続きを行います。
- その他: 確定給付企業年金(DB)や企業年金連合会、脱退一時金の受給(一定の条件を満たす場合のみ)といった選択肢もありますが、一般的ではありません。
移換手続きの期限(原則退職後6ヶ月以内)と必要書類
企業型DCの加入者資格を喪失してから、原則として6ヶ月以内に資産の移換手続きを完了させる必要があります。期限を過ぎると自動移換されてしまうため、速やかに手続きを行いましょう。必要な書類(移換申出書など)は、運営管理機関から送られてくる案内に従って準備・提出します。
「自動移換」とは?そのデメリットと対処法
前述の通り、企業型DCの加入資格喪失後6ヶ月以内に移換手続きを行わないと、年金資産は国民年金基金連合会に「特定運営管理機関」として自動的に移されます。これを「自動移換」と言います。
- 自動移換のデメリット:
- 運用が停止される: 資産は現金(預金相当)の状態で管理され、運用が行われません。インフレリスクに対応できず、資産を増やす機会を失います。
- 管理手数料がかかり続ける: 自動移換中も管理手数料が引かれ続け、資産が目減りする可能性があります。
- 将来の受取手続きが煩雑になる: いざ年金を受け取る際の手続きが複雑になることがあります。
- iDeCoの加入期間等に通算されない: 自動移換されている期間は、確定拠出年金の加入者等期間としてみなされません。
- 自動移換されてしまった場合の対処法:自動移換されたことに気づいたら、速やかに国民年金基金連合会またはiDeCoの運営管理機関に連絡し、iDeCoへの移換手続きや、転職先の企業型DCへの移換手続き(可能な場合)を行いましょう。
【iDeCo加入者向け】転職時の手続きと注意点
次に、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している方が転職する場合の手続きです。
転職による加入者情報の変更手続き(勤務先、被保険者種別など)
転職によって勤務先が変わったり、働き方が変わって国民年金の被保険者種別(例:会社員(第2号)から自営業者(第1号)へ)が変更になったりした場合は、iDeCoに登録している加入者情報を変更する必要があります。加入しているiDeCoの運営管理機関(金融機関)に連絡し、「加入者登録事業所変更届」や「加入者被保険者種別変更届」などの書類を提出します。
転職先の企業年金制度と掛金上限額の確認
転職先の企業に企業型DCや確定給付企業年金(DB)などの企業年金制度がある場合、iDeCoで拠出できる掛金の上限額が変わることがあります。転職先の人事・総務担当者に企業年金制度の状況を確認し、必要であればiDeCoの掛金額の変更手続きも行いましょう。
2022年10月の法改正により、企業型DCに加入している会社員の方もiDeCoに加入しやすくなりましたが、企業型DCの事業主掛金額やマッチング拠出の有無などによってiDeCoの掛金上限が変動するため、注意が必要です。
転職先での確定拠出年金:継続と運用のポイント
転職後も、確定拠出年金を活用して賢く資産形成を続けていきましょう。
企業型DCの場合:運用商品の見直し、マッチング拠出の検討
転職先の企業型DCに移換した場合、その制度で提供されている運用商品の中から改めて自分で運用商品を選び直す必要があります。また、企業によっては従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」制度がある場合もありますので、利用を検討してみるのも良いでしょう。
iDeCoの場合:掛金額の変更、運用商品の見直し
iDeCoを継続する場合、転職後の収入やライフプランに合わせて掛金額を見直すことができます(年に1回変更可能)。また、定期的に運用状況を確認し、必要に応じて運用商品の配分変更(スイッチング)を行うことも大切です。
運営管理機関の選択と変更について
iDeCoの場合、運営管理機関(金融機関)は途中で変更することも可能です。手数料の体系、運用商品のラインナップ、提供される情報やサポート体制などを比較検討し、より自分に合った金融機関を選ぶことも検討しましょう。
転職を機に確定拠出年金を始めたい!
これまで確定拠出年金に加入していなかった方も、転職を機に老後資金準備を始めるのは良い選択です。
企業型DCへの加入(転職先に制度がある場合)
転職先の企業に企業型DC制度があれば、その制度のルールに従って加入することができます。企業が掛金を拠出してくれるため、有利に資産形成を始められる可能性があります。
iDeCoへの新規加入
転職先に企業型DC制度がない場合や、企業型DCと併用してさらに手厚く準備したい場合は、iDeCoへの新規加入を検討しましょう。税制優遇メリットを最大限に活用しながら、自分で運用計画を立てていくことができます。
転職と確定拠出年金に関するQ&A
最後に、転職と確定拠出年金に関するよくある質問にお答えします。
Q1: 転職活動中、確定拠出年金の掛金はどうなる?
A1:
- 企業型DCの場合: 退職すると加入者資格を失うため、掛金の拠出は停止されます。速やかに移換手続きが必要です。
- iDeCoの場合: 国民年金の被保険者種別が変わらなければ、原則として掛金の拠出を継続できます。ただし、退職して一時的に被保険者種別が変わる場合(例:第2号から第1号へ)は、種別変更の手続きと掛金上限額の確認が必要です。
Q2: 企業型DCとiDeCoは併用できる?
A2: 2022年10月の法改正により、企業型DC加入者の方もiDeCoに加入しやすくなりました。ただし、企業型DCの規約でiDeCoとの同時加入が認められていること、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の合計額などが一定の範囲内であること、といった条件があります。詳細は転職先の人事・総務担当者や、企業型DC・iDeCoの運営管理機関にご確認ください。
Q3: 運用していた資産はどうなるの?減ってしまう可能性は?
A3: 企業型DCやiDeCoで運用していた資産は、元本が保証されているわけではありません(元本確保型の商品を選んでいる場合を除く)。運用商品によっては、市場の変動により資産価値が増減する可能性があります。移換手続き中も、基本的には移換元の運用商品で運用が継続されるか、一時的に現金化されるかは制度や運営管理機関によりますので確認が必要です。新しい移換先で改めて運用商品を選び直すことになります。
Q4: 手続きがよく分からない場合の相談先は?
A4:
- 企業型DCの場合: まずは退職する会社および転職先の会社の人事・総務担当者、またはそれぞれの企業型DCの運営管理機関(金融機関)に相談しましょう。
- iDeCoの場合: 加入しているiDeCoの運営管理機関(金融機関)のコールセンターや窓口に問い合わせましょう。
- 国民年金基金連合会のiDeCo公式サイトも参考になります。
まとめ:転職時の確定拠出年金、早めの手続きで安心の未来を
転職は、キャリアだけでなく、将来の資産形成を見直す大切な機会です。確定拠出年金に加入している方は、転職に伴う手続きを忘れず、かつ速やかに行うことが、あなたの貴重な年金資産を守り、育てるために不可欠です。
手続きが少し複雑に感じるかもしれませんが、放置してしまうと「自動移換」といったデメリットが生じる可能性もあります。分からないことは運営管理機関や転職先の人事担当者に積極的に確認し、早め早めの行動を心がけましょう。この記事が、あなたのスムーズな手続きと、将来に向けた安心の資産形成の一助となれば幸いです。