転職時の「身元保証人」どうする?必要な理由から頼める人、注意点まで解説
転職が決まり、新しい会社への入社準備を進める中で、「身元保証人」を立てるよう求められることがあります。普段あまり馴染みのない手続きだけに、「なぜ必要なの?」「誰に頼めばいいの?」「どんな責任があるの?」と戸惑いや不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、転職時に企業が身元保証人を求める理由から、身元保証人になれる人の一般的な条件、保証人の責任範囲、そして頼める人がいない場合の対処法まで、気になるポイントをわかりやすく解説します。
そもそも転職で「身元保証人」が求められる理由とは?
企業が新たに入社する社員に対して身元保証人を求める主な理由には、以下のような点が挙げられます。
- 従業員の誠実性の担保: 企業は、従業員が将来的に故意または重大な過失によって会社に損害を与えた場合に備え、その損害賠償の履行を確実にするための一つの手段として身元保証を求めます。例えば、経歴詐称が発覚した場合や、機密情報を漏洩した場合、会社の金品を横領した場合などが想定されます。
- 緊急連絡先としての意味合い: 何かあった際の確実な連絡先として、家族などの身元保証人を把握しておきたいという意図もあります。
- 従業員への自覚と責任感の醸成: 身元保証人を立てることで、入社する本人に「会社や保証人に迷惑をかけられない」という自覚と責任感を持たせ、誠実な勤務を促す精神的な効果を期待する側面もあります。
ただし、近年では個人情報保護への意識の高まりや、保証人となる方への負担軽減といった観点から、身元保証人を求めない企業や、誓約書や緊急連絡先の提出のみで代替する企業も増えつつあるのが実情です。
身元保証人には誰を頼める?一般的な条件
身元保証人を誰に頼めるかは、まず入社する企業が提示する条件を確認することが最も重要です。企業によっては、「安定した収入のある成人」「生計を別にしている親族」など、具体的な条件を指定している場合があります。
一般的に、身元保証人として頼みやすいのは以下のような方々です。
- 親: 最も頼みやすく、企業側も受け入れやすいケースが多いです。
- 配偶者: 安定した収入があれば認められる場合がありますが、生計を同一にしている場合は企業によって判断が分かれることもあります。
- 兄弟姉妹: 独立して安定した収入があれば、有力な候補となります。
- その他の親族(祖父母、おじ・おばなど): 定期的な収入があり、保証能力があると判断されれば認められることがあります。
友人や知人に依頼することも考えられますが、企業によっては親族以外を認めていないケースや、より慎重な判断がなされる場合があります。
誰に依頼するにしても、身元保証人になるということは、万が一の場合に責任を負う可能性があることを相手にしっかりと説明し、誠意をもってお願いすることが大切です。快く引き受けてもらえるよう、日頃からの信頼関係が重要になります。
身元保証人の責任範囲はどこまで?知っておくべき法律
「身元保証人になると、何かあった時に莫大な借金を背負わされるのでは…」と心配される方もいるかもしれませんが、身元保証人の責任範囲は法律によって無制限に重いものが課されるわけではありません。日本には「身元保証ニ関スル法律(身元保証法)」という法律があり、保証人を保護するための規定が設けられています。
主なポイントは以下の通りです。
- 保証期間: 身元保証契約の期間は、定めがない場合は原則として3年、定める場合でも最長で5年とされています。5年を超える期間を定めても、その期間は5年に短縮されます。自動更新の定めは無効であり、期間満了後に保証を継続するには、改めて保証契約を結び直す必要があります。
- 企業側の通知義務: 企業は、従業員に業務上不適任または不誠実な行跡があって、そのために身元保証人に責任が生じる恐れがあることを知ったときや、従業員の任務または任地を変更し、そのために身元保証人の責任が加重されたり、監督が困難になったりしたときは、遅滞なく身元保証人に通知しなければなりません。
- 保証人の契約解除権: 身元保証人は、上記の企業からの通知を受けたとき、または従業員に著しい不信行為があったことを知ったときなど、将来に向かって身元保証契約を解除することができます。
- 責任の軽減・免除: 裁判所は、身元保証人の責任の有無や賠償額を決定するにあたり、企業の監督責任の程度、身元保証人が保証をするに至った事情、その他一切の事情を考慮することになっています。つまり、企業側の監督に過失があった場合などは、保証人の責任が軽減されたり免除されたりする可能性があります。
2020年4月の民法改正と身元保証契約について:
2020年4月に施行された改正民法では、個人が事業用の融資などの保証人になる場合(個人根保証契約)に、保証する債務の極度額(上限額)を定めなければ保証契約が無効になるというルールが導入されました。
身元保証契約は、この改正民法の個人根保証契約のルールが直接適用されるわけではなく、引き続き「身元保証ニ関スル法律」が優先して適用されます。しかし、保証人を過度な責任から保護するという民法改正の趣旨を踏まえ、企業側が自主的に身元保証契約においても損害賠償額の上限を設けるケースや、保証人との間で個別に上限額について合意するケースも考えられます。不安な場合は、企業に確認してみるとよいでしょう。
実際には、よほど悪質なケースや多大な損害が発生した場合を除き、身元保証人に実質的な損害賠償請求が及ぶケースは稀であると言われていますが、責任が全くないわけではないことは理解しておく必要があります。
身元保証書への記入:記載内容と注意点
企業から渡される身元保証書には、一般的に以下のような項目を記載します。
- 身元保証人の氏名、住所、生年月日、連絡先(電話番号)
- 本人との続柄
- 身元保証人の勤務先、役職、年収
- 身元保証人の自署、押印(実印と印鑑証明書を求められる場合もあります)
身元保証人には、必ず本人が内容をよく確認した上で、自署・押印してもらう必要があります。代筆や無断での押印は絶対に避けましょう。また、保証人となる方にも、どのような契約内容なのかをしっかりと説明し、理解してもらうことが大切です。不明な点があれば、勝手に判断せず、事前に企業の担当者に質問しましょう。
身元保証人を頼める人がいない場合の対処法
「親が高齢で収入がない」「頼れる親族がいない」など、様々な事情で身元保証人を頼める人が見つからない場合もあるかもしれません。そのような時は、正直に状況を会社に相談することが第一歩です。
- 正直に会社に相談する: まずは、採用担当者や人事部に「身元保証人を立てることが難しい」という事情を率直に伝え、どのように対応すれば良いか相談しましょう。企業によっては、柔軟に対応してくれる場合があります。
- 代替措置の検討:
- 保証会社(身元保証サービス)の利用: 近年では、身元保証人の役割を代行してくれる保証会社(身元保証サービス)も存在します。企業がこのサービスの利用を認めている場合は、検討してみるのも一つの方法です。ただし、利用には審査があり、保証料(通常は自己負担)が発生します。
- 上司や同僚、恩師など、親族以外で信頼できる人に相談: 企業が親族以外の保証人を認めるか確認した上で、日頃から信頼関係のある方に相談してみるという方法もあります。ただし、相手に大きな負担をかける可能性を十分に説明し、慎重にお願いする必要があります。
- 誓約書のみでの対応: 企業によっては、身元保証人の代わりに、本人が一定の事項を遵守することを誓約する「誓約書」の提出のみで対応してくれる場合もあります。
- 企業によっては免除されるケースも: 企業の規模や方針、あるいは本人の状況によっては、身元保証人の提出が免除されることもあります。諦めずにまずは相談してみることが大切です。
近年における身元保証人の扱いの変化
時代の変化とともに、企業における身元保証人の扱いにも変化が見られます。
- 個人情報保護意識の高まり: 身元保証人から多くの個人情報を取得することに対する慎重な姿勢が広まっています。
- 保証人への負担軽減の動き: 保証人が負う可能性のあるリスクや精神的負担を考慮し、制度自体を見直す企業も出てきています。
- 外資系企業などでは求められないことが多い: 外資系企業やIT系の新しい企業などでは、身元保証人を求めないケースが一般的です。
- 誓約書や緊急連絡先の提出で代替する企業の増加: 身元保証制度の代わりに、入社時に服務規程の遵守などを盛り込んだ誓約書を提出させたり、緊急連絡先を複数提出させたりすることで対応する企業が増えています。
まとめ
転職時に身元保証人を求められたら、まずは慌てずに、企業がどのような意図で、どのような条件を求めているのかを確認しましょう。そして、身元保証人になってくれる方には、その責任範囲や契約内容を誠実に説明し、感謝の気持ちを持ってお願いすることが大切です。
身元保証人の責任範囲は法律である程度保護されていますが、それでも一定の責任が伴うことを理解しておく必要があります。万が一、頼める人が見つからない場合でも、正直に企業へ相談することで、代替案を提示してもらえたり、解決策が見つかったりすることがあります。
スムーズな入社手続きのためにも、この記事で解説した内容を参考に、適切に対応してください。