転職とローン審査:知っておきたい影響と、賢いタイミングの見極め方
転職は、キャリアアップや新しい環境への挑戦など、人生における大きな転機です。しかし、その一方で、住宅ローンや自動車ローンといった各種ローンの審査に影響が出るのではないかと心配される方も少なくありません。「転職したばかりだけど、ローンは組めるの?」「これから転職を考えているけれど、ローンの審査に不利にならないか?」といった疑問は、多くの方が抱える共通の悩みでしょう。
この記事では、転職がローン審査にどのような影響を与える可能性があるのか、金融機関が審査で重視するポイント、そして転職とローンの申し込みのタイミングをどのように考えれば良いのかについて、分かりやすく解説します。
なぜ転職がローン審査に影響するのか?金融機関の視点
金融機関がローンの審査を行う際、最も重視する点の一つが**「申込者の返済能力と、その安定性」**です。つまり、「貸したお金を、将来にわたってきちんと返済してくれるか」という点を見極めようとします。
転職は、この「収入の安定性」という観点から、審査に影響を与える可能性があります。
- 勤続年数のリセット: 多くの金融機関では、ローンの審査項目の一つとして「勤続年数」を挙げています。転職すると、新しい会社での勤続年数はリセットされるため、勤続年数が短いと「収入がまだ安定していないのではないか」「すぐにまた辞めてしまうリスクがあるのではないか」と見なされ、審査で不利になることがあります。
- 収入の変動: 転職によって年収がアップする場合もあれば、一時的にダウンする場合、あるいは試用期間中は給与が異なる場合など、収入状況が変化します。金融機関は、この変化後の収入が安定的であるか、そして返済計画に無理がないかを見極めようとします。
- 雇用形態の変化: 正社員から契約社員や派遣社員へ、あるいは会社員から自営業(独立)へといった雇用形態の変化は、収入の安定性という点で審査に大きく影響することがあります。
国土交通省の調査(例えば「令和5年度 民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」など)によると、多くの金融機関が住宅ローンの審査において勤続年数を考慮しており、特に「勤続1年以上」を一つの目安としているケースが多いようです。
転職がローン審査に与える具体的な影響
転職によって、ローン審査に以下のような影響が出ることが考えられます。
- 審査に通りにくくなる可能性: 特に転職直後は、勤続年数の短さから審査基準を満たせない、あるいは慎重な判断がなされることがあります。
- 借入可能額が希望通りにならない可能性: 審査に通ったとしても、収入の安定性への懸念から、希望する金額よりも低い借入額しか認められない場合があります。
- 金利などの条件が悪くなる可能性(稀なケース): リスクが高いと判断された場合、金利が若干高めに設定されるといったケースも理論上はあり得ますが、一般的には勤続年数だけで金利が大きく変動することは少ないでしょう。
- そもそも申し込みができない場合: 金融機関やローン商品によっては、申込条件として「勤続〇年以上」と明確に定めている場合があります。この場合、転職直後は申し込み自体ができないこともあります。
ローン審査で見られる主なポイント(転職時以外も共通)
転職の有無に関わらず、ローン審査では一般的に以下のような点が総合的に評価されます。
- 申込者の属性:
- 年齢(借入時年齢、完済時年齢): 無理のない返済計画が立てられるか。
- 年収・収入の安定性: 継続的かつ安定した収入があるか。
- 雇用形態: 正社員、契約社員、自営業など。
- 勤続年数: 収入の安定性を測る指標の一つ。
- 勤務先の規模・業績: 勤務先の安定性も考慮されることがあります。
- 信用情報:
- クレジットカードの支払いや他のローンの返済状況など、過去の金融取引に関する情報。延滞などの履歴があると、審査に大きく影響します。
- 健康状態(主に住宅ローン): 団体信用生命保険への加入が条件となることが多く、健康状態が審査項目の一つとなります。
- 物件の担保価値(主に住宅ローン・不動産担保ローン): 融資対象となる物件の価値。
- 借入希望額と返済負担率: 年収に占める年間返済額の割合が、無理のない範囲内であるか。
- 頭金の額(主に住宅ローン): 頭金が多いほど、借入額が少なくなり、返済能力が高いと見なされやすくなります。
- 他の借入状況: 他に多額の借り入れがある場合は、返済能力が低いと判断されることがあります。
転職とローン申し込み:最適なタイミングはいつ?
転職を考えている、あるいは転職したばかりの状況でローンを申し込む場合、タイミングは非常に重要です。
1. 住宅ローンの場合
住宅ローンは借入額が大きく、返済期間も長期にわたるため、特に慎重な判断が求められます。
- 転職前にローン審査を終えるのが理想的(物件が決まっている場合): 一般的に、転職前の安定した勤続年数と収入で審査を受ける方が、有利に進む可能性が高いと言われています。物件の購入意思が固まっており、現在の勤務状況で審査に通る見込みがあれば、住宅ローンの本審査承認を得て、融資実行(物件の引き渡し)までを済ませてから転職する方が、審査への影響を最小限に抑えられます。 注意点: ローン申込後、融資実行までの間に転職すると、審査内容の前提が変わるため、再審査が必要になったり、最悪の場合、融資承認が取り消されたりするリスクがあります。この期間の転職は避けるべきです。
- 転職後に申し込む場合:
- 転職後、少なくとも半年~1年以上経過してから申し込むのが一般的です。新しい職場での収入が安定し、勤続年数もある程度積み重なることで、金融機関からの信頼を得やすくなります。
- キャリアアップのための転職で年収が大幅に増加した場合などは、その実績が評価されることもあります。その際は、転職後の給与明細や雇用契約書(年収見込みが記載されたもの)などを提出します。
- 「フラット35」など、一部の住宅ローン商品では、勤続年数を問わないものもあります。
2. 自動車ローンやカードローンなどの場合
住宅ローンほど審査基準は厳しくない傾向がありますが、それでも勤続年数や収入の安定性は見られます。
- 転職直後の申し込みは慎重に: 可能であれば、転職後数ヶ月が経過し、新しい職場での給与明細が数ヶ月分揃ってから申し込む方が、スムーズに進む可能性が高いでしょう。
- 借入希望額を抑える: 必要最小限の金額で申し込むことで、審査のハードルを下げることができます。
- 他の借り入れを整理しておく: 他にローンやキャッシングなどがある場合は、できる限り整理しておくことで、返済能力への懸念を減らせます。
転職後にローン審査を通過しやすくするためのポイント
もし転職後にローンを申し込む場合は、以下の点を意識すると良いでしょう。
- 頭金を多く用意する(主に住宅ローン): 借入額を減らすことで、返済負担率が下がり、審査に通りやすくなります。
- 他の借り入れを減らしておく: クレジットカードのキャッシング枠を見直したり、不要なカードローンを解約したりするなど、借入総額を減らす努力をしましょう。
- 信用情報に傷がないか確認する: 過去に支払いの延滞などがないか、事前に信用情報機関に情報開示を請求して確認しておくことも有効です。
- 転職理由を明確に説明できるようにしておく: キャリアアップなど前向きな転職であることを伝えられると、プラスに評価される可能性があります(金融機関によっては職務経歴書の提出を求められることもあります)。
- 収入証明書類をきちんと準備する: 転職後の収入を証明できる書類(給与明細、雇用契約書、源泉徴収票など)を正確に準備しましょう。
- 複数の金融機関に相談・比較検討する: 金融機関によって審査基準は異なります。一つの金融機関で審査に通らなかったとしても、別の金融機関では通る可能性もあります。
住宅ローン返済中に転職した場合の注意点
すでに住宅ローンを返済中に転職した場合、速やかに借入先の金融機関に勤務先変更の届け出を行う必要があります。 これは、住宅ローン契約の約款で定められているのが一般的です。
届け出をしても、原則として適用金利などの借入条件が変更されることはありません。返済が滞らない限り、転職自体が問題になることは稀ですが、報告義務を怠ると契約違反と見なされる可能性もあるため、必ず連絡しましょう。
まとめ:転職とローンは計画的に、専門家への相談も視野に
転職は、ローン審査において「勤続年数」や「収入の安定性」という点で影響を与える可能性があります。特に住宅ローンのような大きな借り入れを検討している場合は、転職のタイミングを慎重に考える必要があります。
一般的には、ローンを組むのであれば転職前、あるいは転職後しばらく期間を置いてからの方が、審査がスムーズに進む可能性が高いと言えるでしょう。しかし、個々の状況や転職の内容(キャリアアップなど)、金融機関の審査基準によっても結果は異なります。
不安な場合は、ファイナンシャルプランナーやローンアドバイザーといった専門家に相談し、ご自身の状況に合わせた最適なアドバイスを受けることをお勧めします。計画的な準備と情報収集が、転職とローンという人生の大きなイベントを成功させるための鍵となります。