転職後、給与から厚生年金が引かれてない?その理由と確認すべきこと完全ガイド
転職して新しい会社で働き始め、初めての給与明細を見て「あれ?厚生年金保険料が引かれていない…」と不安に思ったことはありませんか。「手続きがまだなのかな?」「もしかして加入できていないの?」「何か問題があるのだろうか?」――そんな疑問や心配が頭をよぎるかもしれません。
厚生年金は、将来の老齢年金だけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金にも関わる非常に重要な社会保険制度です。給与から保険料が正しく天引きされていない場合、何らかの理由があるはずです。
この記事では、転職後に厚生年金保険料が給与から引かれていない場合に考えられる主な理由、ご自身で確認すべきこと、そして適切な対処法について、分かりやすく徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたの不安が解消され、安心して新しい職場で働くための一助となるはずです。
(※重要:厚生年金を含む社会保険制度の内容や手続きは、法改正などにより変更されることがあります。また、個々の雇用契約や企業の規定によって取り扱いが異なる場合もあります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新かつ正確な情報、個別のケースについては、必ず勤務先の人事・総務担当者や、お近くの年金事務所にご確認ください。)
「厚生年金が引かれてない!」まずは落ち着いて状況を確認
給与明細を見て厚生年金保険料の項目がなかったり、金額が0円だったりすると、焦ってしまうかもしれません。しかし、まずは落ち着いて状況を確認することが大切です。
なぜ厚生年金保険料の天引きが重要なのか?
厚生年金保険料は、被保険者である従業員と事業主(会社)が折半して負担し、毎月の給与や賞与から天引きされる形で納付されます。この保険料を納めることで、あなたは以下の保障を受ける権利を得ます。
- 老齢厚生年金: 原則65歳から受け取れる、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せされる年金。
- 障害厚生年金: 病気やケガで障害の状態になった場合に受け取れる年金。
- 遺族厚生年金: 被保険者が亡くなった場合に、遺族が受け取れる年金。
保険料が正しく納付されていないと、これらの年金の受給資格や受給額に影響が出る可能性があります。
給与明細のどこをチェックする?
給与明細には通常、「控除」の項目に「厚生年金保険料」という記載があります。まずは、この項目があるか、金額が記載されているかを確認しましょう。併せて、「健康保険料」や「雇用保険料」といった他の社会保険料が引かれているかも確認しておくと、状況把握の参考になります。
(重要)自己判断せず、まずは会社に確認を
厚生年金保険料が引かれていない理由には様々な可能性があり、自己判断で「大丈夫だろう」あるいは「大変なことになった」と結論づけるのは早計です。最も確実なのは、勤務先の人事・総務担当者に正直に状況を伝え、確認してもらうことです。
転職後に厚生年金が引かれていない主な理由と考えらえるケース
では、具体的にどのような理由で厚生年金保険料が給与から引かれていない可能性があるのでしょうか。
理由1:入社月と社会保険料の徴収タイミング
- 社会保険料の徴収ルール: 厚生年金保険料を含む社会保険料は、原則として「被保険者資格を取得した月」から発生し、「被保険者資格を喪失した月の前月」まで納付義務があります。そして、多くの企業では、**当月分の社会保険料を翌月の給与から徴収(天引き)する「翌月徴収」**という方式を採用しています。
- 月の途中で入社した場合の取り扱い: 例えば、5月15日に入社した場合、5月分の社会保険料が発生しますが、会社が翌月徴収を採用していれば、5月分の保険料は6月に支払われる給与から天引きされます。そのため、5月分の給与明細には厚生年金保険料の記載がない(引かれていない)ということになります。これは正常な処理です。 また、月末入社の場合(例:5月31日入社)、その月の資格を取得するため、同様に翌月徴収であれば6月支給の給与から引かれます。
理由2:試用期間中の社会保険の扱い
- 原則として試用期間でも加入義務あり: 試用期間中であっても、雇用契約が締結され、厚生年金の加入条件(後述)を満たしていれば、原則として入社日から厚生年金に加入する義務があります。
- 誤解や例外的なケース?: まれに、試用期間中は社会保険に加入させないといった誤った認識を持つ企業や、ごく短期間(例:2ヶ月以内)の試用期間で、その後の本採用時に加入手続きを行うといった特殊なケースも考えられなくはありませんが、基本的には法律違反となる可能性があります。この点も会社への確認が必要です。
理由3:雇用契約の内容と加入条件
厚生年金に加入するためには、以下の基本的な条件を満たす必要があります。
- 適用事業所であること: 株式会社などの法人事業所や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(一部業種を除く)は、厚生年金の適用事業所となります。
- 常時使用される従業員であること: 正社員はもちろん、パートタイマーやアルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(正社員など)の4分の3以上である場合は、原則として被保険者となります。
- 短時間労働者への適用拡大: 上記4分の3基準に満たない場合でも、以下の要件を全て満たす短時間労働者は厚生年金の被保険者となります(従業員数101人以上の企業。2024年10月からは51人以上の企業に拡大)。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
あなたの雇用契約がこれらの加入条件を満たしていない場合(例:週の労働時間が非常に短いなど)、厚生年金が引かれていない可能性があります。
理由4:会社側の手続きの遅れやミス
会社の人事・総務担当者が、あなたの厚生年金加入手続きをまだ行っていなかったり、何らかのミスで手続きが漏れていたりする可能性も考えられます。
理由5:あなたが厚生年金の加入対象外である可能性(まれなケース)
例えば、役員で常勤ではない場合や、一部の個人事業所で働く場合など、ごくまれに厚生年金の加入対象外となるケースもあります。
厚生年金に加入しているか確認する方法
会社に直接聞きにくい、あるいは念のため自分で確認したいという場合は、以下の方法で加入状況を確認できます。
会社の人事・総務担当者への確認
最も確実で早いのは、やはり会社の人事・総務担当者に直接確認することです。「給与明細で厚生年金保険料が引かれていなかったのですが、加入状況について確認させていただけますでしょうか」と丁寧に尋ねてみましょう。
年金事務所での確認
お近くの年金事務所の窓口で相談すれば、ご自身の厚生年金加入記録を確認できます。その際は、基礎年金番号がわかるもの(年金手帳や基礎年金番号通知書など)や本人確認書類を持参しましょう。
「ねんきん定期便」「ねんきんネット」の活用
- ねんきん定期便: 毎年誕生月に日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」には、これまでの年金加入記録が記載されています。
- ねんきんネット: 日本年金機構のウェブサイト「ねんきんネット」に登録すれば、いつでもオンラインで自分の年金記録を確認できます。
健康保険証の種類もヒントに
通常、厚生年金と健康保険はセットで加入します。会社から交付された健康保険証が、協会けんぽや企業の健康保険組合のものであれば、厚生年金にも加入している可能性が高いです。逆に、国民健康保険の保険証を持っている場合は、厚生年金には加入していないと考えられます。
厚生年金が引かれていない場合の対処法:何をすべきか
厚生年金保険料が引かれていないことに気づいたら、放置せず、以下の手順で対処しましょう。
まずは会社の人事・総務担当に正直に問い合わせる
前述の通り、まずは会社に確認することが第一です。単なる徴収タイミングのズレかもしれませんし、手続き漏れかもしれません。正直に状況を伝え、確認を依頼しましょう。
手続き漏れだった場合の会社の対応と、遡及加入・納付について
もし会社側の手続き漏れが原因だった場合、会社は速やかに加入手続きを行い、必要であれば過去に遡って厚生年金に加入させる(遡及加入)とともに、未納分の保険料(会社負担分と本人負担分)を納付する義務があります。本人負担分については、今後の給与から調整されるか、別途支払い方法について会社から指示があるでしょう。
会社が適切に対応してくれない場合の相談先
万が一、会社に問い合わせても明確な説明がなかったり、適切な対応をしてもらえなかったりする場合は、年金事務所や、労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーなどに相談することを検討しましょう。
厚生年金に未加入だった場合のリスク・デメリット
もし、本来加入すべきであったにもかかわらず厚生年金に未加入だった期間があると、以下のようなリスクやデメリットが生じる可能性があります。
将来受け取る老齢厚生年金額への影響
厚生年金の加入期間や納付した保険料額は、将来受け取る老齢厚生年金の金額に直接影響します。未加入期間があると、その分年金額が少なくなってしまいます。
障害厚生年金や遺族厚生年金の受給資格への影響
病気やケガで障害の状態になった場合に受け取れる「障害厚生年金」や、被保険者が亡くなった場合に遺族が受け取れる「遺族厚生年金」は、一定の保険料納付要件などを満たしていないと受給できません。未加入期間が原因で、これらの保障が受けられなくなる可能性があります。
国民年金のみの加入となる(第1号被保険者としての手続きが必要)
厚生年金に加入していない会社員は、原則として国民年金の第1号被保険者となり、自分で国民年金保険料を納付する必要があります。この手続きも漏れていると、国民年金も未納状態になってしまいます。
国民年金との関係:厚生年金に加入していれば…
日本の公的年金制度は2階建て構造になっています。
厚生年金加入者は国民年金の第2号被保険者
厚生年金に加入している会社員や公務員は、自動的に国民年金の「第2号被保険者」にもなります。
保険料は厚生年金保険料に含まれる
第2号被保険者の場合、国民年金保険料を別途納付する必要はありません。厚生年金保険料の中に、国民年金部分の保険料も含まれているためです。
転職と厚生年金に関するQ&A
最後に、転職と厚生年金に関するよくある質問をまとめました。
Q1: 転職活動中の空白期間の年金はどうなる?
A1: 会社を退職し、次の会社に入社するまでの空白期間は、厚生年金の被保険者ではなくなります。この期間は、原則として国民年金の第1号被保険者となり、自分で国民年金保険料を納付する必要があります。お住まいの市区町村役場で手続きを行いましょう。
Q2: 複数の会社で働いている場合の厚生年金は?
A2: 複数の適用事業所で同時に働く場合(ダブルワークなど)で、それぞれの事業所で厚生年金の加入条件を満たす場合は、原則として全ての事業所で厚生年金に加入し、保険料もそれぞれの給与に応じて按分して納付することになります。手続きについては、それぞれの会社および年金事務所にご確認ください。
Q3: 厚生年金基金に加入していた場合はどうなる?
A3: 厚生年金基金は、国の厚生年金の一部を代行し、さらに企業独自の給付を上乗せする制度でしたが、現在は新規設立が認められておらず、多くの基金が解散または他の制度へ移行しています。転職時に厚生年金基金に加入していた場合は、その基金の規約や、解散・移行先の制度によって取り扱いが異なります。退職する会社や基金の窓口に必ず確認しましょう。
まとめ:厚生年金の天引き漏れ?気づいたら早めの確認と適切な対応を
転職後に給与明細を見て厚生年金保険料が引かれていないことに気づいたら、まずは慌てずに、その理由を会社の人事・総務担当者に確認することが大切です。多くの場合、入社月の徴収タイミングの違いであったり、何らかの手続き上のタイムラグであったりすることが考えられます。
しかし、万が一、手続き漏れや加入条件の誤解などがあった場合は、将来の年金額や保障に影響が出る可能性もあります。早期に気づき、適切な対応をとることで、そのようなリスクを回避することができます。
あなたの新しい職場での生活が、年金の不安なく、安心してスタートできることを心より願っています。