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ポイズンピルの「差し止め請求」とは?意味や裁判事例を分かりやすく解説

岩下隼人
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企業の買収合戦がニュースになると、「買収側が、会社のポイズンピル発動に対し、発行の差し止め請求を裁判所に申し立てました」といった、少し難しそうなフレーズを耳にすることがあります。

「差し止め請求って、いったい何のこと?」

「どうしてそんなことができるの?」

「そもそも、そんなことが認められるの?」

この記事では、株式投資の初心者の方にも分かるように、ポイズンピルを巡る法的な攻防の切り札、「差し止め請求」について、その意味から実際の裁判事例までを詳しく解説していきます。

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そもそも「差し止め請求」とは?

まず、「差し止め請求」という言葉の意味から見ていきましょう。

簡単に言うと、差し止め請求とは**「ある特定の行為を『やめさせてください』と裁判所に正式にお願いする法的な手続き」**のことです。

これをポイズンピルの話に当てはめると、主に「敵対的買収を仕掛けている会社(買収者)」が、防衛策を発動しようとしている「買収先の会社」に対して、**「そのポイズンピルの発動を、裁判所の力でやめさせてください(差し止めてください)」**と訴えることを指します。

つまり、ポイズンピルという会社の「盾」に対して、買収者が「その盾を使うのはルール違反だ!」と裁判所に訴え出る、法的な対抗手段なのです。

なぜポイズンピルは「差し止め」の対象になるのか?

では、なぜ会社の防衛策であるポイズンピルを「やめさせろ」と訴えることができるのでしょうか。

それは、買収者から見ると、ポイズンピルの発動が**「著しく不公正な方法」で、「株主としての権利を侵害する行為」**に映るからです。

買収者の視点に立つと、主張はこうなります。

「私たちは、正当な手続きで市場から株式を買い集めている。それなのに、会社がポイズンピルを発動して新しい株式を大量に発行すれば、私たちの持っている株の価値は一方的に薄められ(希薄化)、大損害を被ってしまう。これは、株主の財産権を侵害する不公正なやり方だ!」

日本の会社法では、このような「著しく不公正な方法」で新株が発行される場合、株主は会社に対してその発行をやめるよう請求できる、と定められています。買収者は、この法律を根拠に差し止めを請求するのです。

差し止め請求が認められるための「2つのカギ」

もちろん、差し止め請求をすれば必ず認められるわけではありません。裁判所は、そのポイズンピルが本当に「不公正」なのかを厳しく審査します。その際に、特に重要となるのが以下の2つのポイントです。

カギ1:「経営者の保身」が主たる目的ではないか

裁判所は、そのポイズンピルの発動が、会社の利益のためではなく、「今の経営陣が自分たちの地位を守ること(保身)」が一番の目的になっていないかを scrutinize します。もし保身が主たる目的だと判断されれば、そのポイズンピルは「不公正」と見なされ、差し止めが認められる可能性が非常に高くなります。

カギ2:株主全体の利益を不当に害していないか

たとえ会社を守るという目的があったとしても、その手段が過剰で、株主全体の利益(株主共同の利益)を不当に害するものであってはなりません。防衛策としての必要性と、それによって株主が受ける不利益を天秤にかけ、手段が「相当である(やりすぎていない)」かどうかが判断されます。

【有名な裁判事例】ライブドアによる差し止め請求

この「差し止め請求」が一躍有名になったのが、日本のM&Aの歴史を語る上で欠かせない、あの事件です。

  • 事件の概要:2005年、IT企業のライブドア(当時)が、ラジオ局のニッポン放送の経営権取得を目指して敵対的買収を開始。これに対抗するため、ニッポン放送は大量の新株予約権を発行するポイズンピルを発動しようとしました。
  • 差し止め請求:これに対し、大株主となっていたライブドアは、「このポイズンピルは、我々特定の株主を狙い撃ちにする不公正なものだ」として、発行の差し止めを裁判所に請求しました。
  • 裁判所の判断と結果:裁判所(東京高裁)は、このポイズンピルが**「現経営陣の支配権維持が主たる目的」**であると認定。これは会社法が禁じる「著しく不公正な方法」にあたるとして、ライブドアの差し止め請求を全面的に認める決定を下しました。これにより、ニッポン放送のポイズンピル発動は阻止されました。

この歴史的な司法判断により、「経営者は、株主の利益を無視して安易にポイズンピルを使うことはできない」という厳しいルールが、日本市場で明確に示されたのです。

まとめ

  • 差し止め請求とは、ポイズンピルのような行為を「やめさせてください」と裁判所に求める法的な対抗手段のこと。
  • 買収者が、ポイズンピルの発動は「不公正な方法で株主の権利を侵害する」として、会社を訴える形で請求される。
  • 裁判所は**「経営者の保身が目的でないか」「株主全体の利益を不当に害していないか」**を厳しく審査し、差し止めを認めるかを判断する。
  • ライブドアがニッポン放送のポイズンピルを差し止めた裁判は、その後の日本のM&A実務に大きな影響を与えた歴史的な事例である。

「差し止め請求」という手続きの存在は、経営者の一方的な行動に歯止めをかけ、株主の権利を守るための重要な仕組みと言えるでしょう。この知識は、ニュースの裏側を読み解き、投資家としての視野を広げるのに役立ちます。

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岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
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