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村上ファンドが黒田電気に仕掛けた敵対的TOB|MBOでの決着から学ぶ投資の攻防

岩下隼人
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「物言う株主(アクティビスト)」と企業の対立は、時に株主提案や委任状争奪戦といった形で行われます。しかし、交渉がこじれ、要求が全く通らない場合、彼らは最終手段に打って出ることがあります。それが、自らが買い手となって会社の経営権を奪いにいく「敵対的TOB(株式公開買付け)」です。

2015年から2年半にわたり繰り広げられた、旧村上ファンド系と電子部品商社「黒田電気」の壮絶な攻防戦は、まさにその象徴的な事例です。この記事では、株式投資を始めたばかりの初心者の方にも分かりやすく、この攻防の全貌と、「MBO」という意外な結末から得られる重要な教訓を解説していきます。

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なぜ村上ファンド側は「黒田電気」に狙いを定めたのか?

まず、なぜ旧村上ファンド系の投資家たちが、独立系の電子部品商社である黒田電気に狙いを定めたのでしょうか。その理由は、当時の黒田電気が、アクティビストにとって典型的な「お宝企業」に見えたからです。

  • ① 豊富なネットキャッシュ(現金)黒田電気は、長年の堅実な経営によって、事業規模に比べて非常に多くの現預金を保有していました。アクティビストの目には、これが「有効活用されずに眠っている、株主の資産」と映りました。
  • ② PBR1倍割れの割安な株価豊富な資産を持つ一方で、株価は割安な水準(PBR1倍割れ)で放置されていました。これは、「経営改革によって企業価値(株価)が大きく上昇する余地がある」と彼らが判断する、重要なサインでした。

村上ファンド側は、この「宝の山」を株主に還元させるべく、黒田電気の経営陣に対して、大規模な増配などの株主還元策を繰り返し要求しました。

交渉決裂、そして株主による「敵対的TOB」という異例の事態へ

しかし、黒田電気の経営陣は、村上ファンド側の要求に簡単には応じませんでした。両者の交渉は平行線をたどり、完全に行き詰まります。

ここで、村上ファンド側は誰もが驚く「最終手段」に打って出ます。2015年、彼らはなんと自らが買い手となり、黒田電気の経営権取得を目指す「敵対的TOB」を開始したのです。

これは、単に外から要求するだけでなく、「自分たちが経営権を握ってでも、株主還元の強化を実現させる」という、極めて強い意志の表れでした。株主が投資先の経営権を奪いにいくという、まさに「株主によるクーデター」とも言える異例の事態に、市場は震撼しました。

経営陣の最終手段「MBO」とは?

窮地に立たされた黒田電気の経営陣。敵対的TOBに対抗するための有効な手立てをなかなか見いだせないまま、時間だけが過ぎていきました。

そして2年半にわたる対立の末、2017年10月、経営陣は起死回生の一手として、驚くべき決断を発表します。それが、MBO(マネジメント・バイアウト) でした。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは?

MBOとは、会社の「経営陣」が、投資ファンドなどの支援を受けて、自社の株式を一般の株主から買い取り、会社を非公開化(上場廃止)にすることです。

MBOの目的は、村上ファンドのような「物言う株主」に口出しされることなく、短期的な株価の変動に惑わされずに、経営陣が腰を据えて長期的な視点で経営改革を行うことにありました。まさに、経営陣が会社を守るための「最後の砦」とも言える選択でした。

攻防の結末 – 誰が本当の勝者だったのか?

黒田電気の経営陣は、投資ファンド「MBKパートナーズ」と組み、TOBを実施して株式の非公開化を目指しました。そして、彼らが提示したTOB価格は、村上ファンド側が仕掛けていたTOB価格を上回るものでした。

これを受け、村上ファンド側は自らのTOBを撤回し、保有する黒田電気株のすべてをMBKパートナーズのTOBに応募(売却)することを決定。結果として、約84億円とも言われる莫大な利益を手にして、黒田電気の経営から手を引きました。

形式上は、経営陣がMBOによって会社を守り、村上ファンドが撤退した形です。しかし、実質的には、村上ファンド側の圧力によって株価は買収前の水準から大きく上昇し、彼らは高値で株式を売り抜けるという当初の目的を完全に達成しました。この攻防の「本当の勝者」は、村上ファンド側だったと言えるでしょう。

この事例から個人投資家が学ぶべきこと

このダイナミックな攻防戦は、私たち個人投資家に多くの重要な教訓を与えてくれます。

教訓①:TOBは株価上昇のビッグチャンス

敵対的TOBであれ、それに対抗するMBO(友好的TOB)であれ、TOBが発表されると、その企業の株価は買付価格を目指して上昇することがほとんどです。もしあなたが保有する株式がTOBの対象になれば、それは大きな利益を得るチャンスとなり得ます。

教訓②:MBOという「出口」を知る

アクティビストと経営陣の対立の末に、「MBOによる非公開化」という結末があることを知っておくのは重要です。MBOが発表された場合も、通常は市場価格より高いプレミアム価格で買い取られるため、個人株主にとっては利益確定の機会となります。

教訓③:非公開化(上場廃止)と、株主の「選択」

MBOが成立すると、その会社の株式は上場廃止となり、市場で売買することができなくなります。そのため、TOBが発表された際には、その条件(価格、期間など)をよく確認し、**「①TOBに応募して売却する」「②市場で売却する」「③そのまま保有し続ける(※非公開化のリスクあり)」**の中から、自分にとって最善の選択をする必要があります。

まとめ

村上ファンドと黒田電気の攻防は、「物言う株主」による敵対的TOBという最終手段と、それに対するMBOという経営陣の最後の砦が激突した、日本のM&A史に残る象徴的な事例です。

この事例は、TOBやMBOといったM&Aの手法が、株価や株主の利益にどう影響するのかを、私たちに具体的に示してくれます。アクティビストの動きを正しく理解することは、時に訪れる大きな投資機会を逃さず、リスクを適切に管理するための、強力な武器になるのです。

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岩下隼人
岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
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