転職と住民税:退職後の支払い、いつからどうなる?手続きの基本
転職や退職をすると、これまで会社が給与から天引き(特別徴収)してくれていた「住民税」の支払い方法が変わることがあります。「退職した後の住民税はどうなるの?」「いつから自分で払うの?」「何か手続きは必要?」など、特に初めて転職する方にとっては、分かりにくいことが多いのではないでしょうか。
この記事では、転職や退職に伴う住民税の基本的な仕組み、支払い方法の変更、そして注意すべき点などを分かりやすく解説します。スムーズな手続きと、納め忘れを防ぐために、ぜひ参考にしてください。
住民税とは?基本的な仕組みをおさらい
まず、住民税の基本的な仕組みについて簡単に理解しておきましょう。
- 住民税とは: 私たちが住んでいる都道府県や市区町村に対して納める地方税の一種で、「都道府県民税」と「市区町村民税(東京23区の場合は特別区民税)」を合わせたものです。教育、福祉、消防・救急、ゴミ処理といった、地域社会の様々な行政サービスを維持するために使われます。
- 課税対象となる所得: 住民税は、前年の1月1日から12月31日までの1年間の所得に基づいて計算されます。会社員の場合は、主に給与所得が対象となります。
- 納税の時期: 前年の所得に基づいて計算された住民税額を、翌年の6月から翌々年の5月までの12ヶ月間にわたって納付します。
住民税の納付方法:「特別徴収」と「普通徴収」
住民税の納付方法には、主に以下の2種類があります。
- 特別徴収:
- 会社員(給与所得者)の一般的な納付方法です。
- 会社(給与支払者)が、毎月の給与から住民税を天引きし、本人に代わって市区町村に納付します。
- 1年分の住民税額が12回に分割されて徴収されるため、1回あたりの負担感が少ないというメリットがあります。
- 従業員は自分で納付手続きをする必要がないため、手間がかからず、納め忘れも防げます。
- 普通徴収:
- 自営業者や、退職して特別徴収ができなくなった方などが対象となる納付方法です。
- 市区町村から送られてくる納税通知書(納付書)に基づき、自分で金融機関の窓口やコンビニエンスストア、口座振替などで納付します。
- 通常、年4回(6月、8月、10月、翌年1月)の納期に分けて納付しますが、一括で納付することも可能です。
原則として、給与所得者は特別徴収が義務付けられています。
転職・退職時の住民税の支払い、どう変わる?
年の途中で退職した場合、住民税の支払い方法は、退職する時期や、退職時に次の転職先が決まっているかどうかによって異なります。
ケース1:退職時に次の転職先が決まっており、切れ目なく入社する場合
- 特別徴収を継続できる可能性があります。
- 手続き:
- 退職する会社の人事・経理担当者に「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」(以下、異動届出書)の作成を依頼します。この書類には、あなたの氏名や住所、退職年月日、そして新しい勤務先の情報などを記載する欄があります。
- 退職する会社が、あなたの退職情報と、特別徴収を継続する旨を記載した異動届出書を作成し、あなたに交付するか、あるいは直接新しい勤務先に送付します(会社の対応によります)。
- あなたは、その異動届出書を速やかに新しい勤務先の人事・経理担当者に提出します。
- 新しい勤務先は、その異動届出書に必要事項を追記し、あなたの住所地の市区町村に提出します。
- 注意点:
- 異動届出書の提出期限: この異動届出書は、原則として退職した月の翌月10日までに市区町村に提出される必要があります。そのため、退職する会社と新しい会社双方での手続きを迅速に進めることが重要です。入社後すぐに新しい会社の人事担当者に相談しましょう。
- 手続きが間に合わない場合: もし手続きが間に合わなかったり、会社間で書類のやり取りがスムーズにいかなかったりした場合は、一時的に普通徴収に切り替わり、自宅に納税通知書が送られてくることがあります。その場合は、自分で納付する必要があります。
ケース2:退職時に次の転職先が決まっていない場合、または特別徴収の継続手続きをしなかった場合
- 普通徴収に切り替わります。
- 退職する時期によって、残りの住民税の支払い方法が異なります。
- 1月1日~4月30日に退職した場合: 原則として、最後の給与や退職金から、その年度の5月分までの住民税が一括で天引き(一括徴収)されます。 これにより、その年度の住民税は全て納付済みとなります。ただし、最後の給与や退職金の額が、徴収すべき住民税額に満たない場合は、残額について普通徴収の納税通知書が送られてくることもあります。
- 5月1日~5月31日に退職した場合: 既に新しい年度の住民税額が決定しており、通常通り最後の給与から5月分の住民税が天引きされます。そして、6月以降に納めるべき新しい年度の住民税については、市区町村から納税通知書が送られてきて、普通徴収で納付することになります。
- 6月1日~12月31日に退職した場合: 退職した月までは給与から天引きされますが、翌年5月までの残りの住民税については、原則として普通徴収に切り替わり、自分で納付することになります。市区町村から納税通知書が送られてきます。 ただし、この場合でも、退職時に会社に申し出れば、最後の給与や退職金から残りの住民税を一括で天引きしてもらうことも可能です。
普通徴収になった場合の納付方法
普通徴収に切り替わった場合は、お住まいの市区町村から納税通知書と納付書が送られてきます。
- 納付場所: 金融機関の窓口、郵便局、コンビニエンスストア、市区町村役場の窓口などで納付できます。
- 納付方法: 口座振替やクレジットカード払い、スマートフォン決済アプリに対応している自治体も増えています。
- 納付期限: 納税通知書に記載された納付期限までに必ず納付しましょう。期限を過ぎると延滞金が発生する場合があります。
新しい会社で「普通徴収」から「特別徴収」へ切り替えるには?
退職後に一時的に普通徴収で住民税を納めていた方が、新しい会社に入社し、給与からの天引き(特別徴収)に切り替えたい場合は、新しい会社の人事・経理担当者にその旨を申し出ましょう。
会社側が市区町村への手続き(「特別徴収への切替申請書」の提出など)を行ってくれます。その際、手元にある普通徴収の納税通知書や納付書を担当者に提出するよう指示されることがあります。
転職と住民税に関する注意点
- 住民税は前年の所得に基づいて課税される: 退職して収入がなくなったとしても、前年に所得があれば住民税の支払い義務は発生します。特に、退職した翌年は収入がない(または少ない)にもかかわらず、前年の所得に基づいた住民税を納める必要があるため、事前に資金計画を立てておくことが重要です。
- 納付先はその年の1月1日時点の住所地の市区町村: 年の途中で引っ越しをした場合でも、その年の住民税は、その年の1月1日時点で住民票があった市区町村に納付します。新しい住所地の市区町村に納付先が変わるのは、翌年度からとなります。
- 納め忘れに注意: 普通徴収に切り替わった場合、自分で納付手続きを行う必要があるため、うっかり納め忘れてしまうと延滞金が発生する可能性があります。納税通知書が届いたら、納付期限を必ず確認しましょう。
- 退職金にかかる住民税: 退職金にも住民税は課税されますが、通常は退職金が支払われる際に、他の所得とは別に特別徴収(天引き)され、納税が完了します。
まとめ:退職・転職時の住民税は、支払い方法の変更に注意
会社員の場合、普段あまり意識することのない住民税ですが、転職や退職を機に、その支払い方法が大きく変わることがあります。
基本的には、転職先が決まっていて切れ目なく入社する場合は、手続きをすれば特別徴収を継続できます。それ以外の場合は、一時的または継続的に普通徴収に切り替わり、自分で納付する必要が生じます。
退職する際には、現在の会社の人事・経理担当者に、退職後の住民税の取り扱いについてしっかりと確認し、必要な手続きを理解しておくことが大切です。そして、普通徴収に切り替わった場合は、納税通知書に従い、納付期限までに忘れずに納付するようにしましょう。この記事が、あなたのスムーズな税務手続きの一助となれば幸いです。