転職時の保険切り替えガイド:手続きの流れと注意点をわかりやすく解説
転職はキャリアの新たなステージへのステップですが、それに伴い様々な事務手続きが必要になります。中でも、健康保険の切り替えは日々の生活に直結する非常に重要な手続きです。退職してから新しい会社に入社するまでの間、あるいは新しい保険証が手元に届くまでの間、医療機関にかかったらどうなるのか不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、転職時の健康保険の切り替えについて、必要な手続きの流れや選択肢、注意点などをわかりやすく解説します。スムーズな保険切り替えを行い、安心して新しいスタートを切るためにお役立てください。
なぜ転職時に保険の切り替えが必要なのか?
日本は国民皆保険制度を採用しており、原則として全ての国民がいずれかの公的医療保険に加入することになっています。会社員の場合、多くは勤務先の健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険に加入しています。
転職するということは、現在の勤務先を退職し、新しい勤務先に入社することを意味します。退職すると、それまで加入していた会社の健康保険の被保険者資格を失います。そのため、新しい健康保険に加入し直す「切り替え」の手続きが必要になるのです。この切り替えを怠ると、保険証がない状態(無保険状態)となり、医療機関を受診した際に医療費が全額自己負担になってしまう可能性があります。
退職に伴う健康保険の手続き
まず、現在の会社を退職する際に必要となる健康保険関連の手続きを確認しましょう。
健康保険証の返却
退職日をもって、それまで使用していた健康保険証は効力を失います。そのため、退職日またはその翌日など、会社の指示に従って、本人分だけでなく扶養家族分の保険証も速やかに会社(または加入していた健康保険組合)に返却する必要があります。失効した保険証を誤って使用すると、後日医療費の返還を求められることがありますので注意してください。
離職票の受け取り(必要な場合)
退職後、国民健康保険への加入手続きや、失業保険(雇用保険の基本手当)の受給手続きを行う際に「離職票」が必要になる場合があります。会社から交付されるタイミングや方法について、事前に確認しておきましょう。
退職後の健康保険の選択肢
退職後の状況によって、健康保険の選択肢はいくつかあります。ご自身の状況に合わせて最適なものを選びましょう。
1. 新しい会社の健康保険に加入する(最も一般的なケース)
すでに次の就職先が決まっており、退職後すぐに(または間を置かずに)新しい会社に入社する場合は、その新しい会社の健康保険に加入することになります。通常、入社手続きの一環として会社が加入手続きを行ってくれます。新しい保険証が交付されるまでの期間や、その間に医療機関を受診する場合の対応については、後述の「新しい会社での健康保険加入手続き」や「保険の切り替えに関する注意点」も参考にしてください。
2. 国民健康保険に加入する
退職後、次の就職先がまだ決まっていない場合や、自営業者・フリーランスとして働く場合などは、お住まいの市区町村が運営する国民健康保険に加入します。
- 手続き場所: お住まいの市区町村役場の国民健康保険担当窓口
- 主な必要書類: 離職票や退職証明書など退職日を証明できる書類、マイナンバーカード(または通知カード)、本人確認書類、印鑑など(自治体によって異なる場合があるため事前に確認)
- 保険料: 前年の所得や世帯の加入者数などに基づいて計算されます。
- 手続き期限: 原則として、退職日の翌日から14日以内に手続きを行う必要があります。期限を過ぎて加入した場合でも、保険料は資格取得日まで遡って請求されることが一般的です。
3. 任意継続被保険者制度を利用する
退職前に加入していた会社の健康保険を、退職後も最長2年間継続できる制度です。
- 対象者: 退職日までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間があることなど、一定の条件を満たす方が対象です。
- 保険料: 在職中は会社と折半して負担していた保険料を、全額自己負担することになります。ただし、保険料の算定基礎となる標準報酬月額には上限が設けられている場合があります。
- 手続き先: 退職前に加入していた健康保険組合または協会けんぽの都道府県支部
- 手続き期限: 原則として、退職日の翌日から20日以内に申請手続きを行う必要があります。
- ポイント: 国民健康保険の保険料と比較して、どちらが有利になるか事前にシミュレーションしてみることが重要です。扶養家族が多い場合などは、任意継続の方が有利になるケースもあります。
4. 家族の扶養に入る
配偶者や親族などが加入している健康保険の被扶養者になれる場合があります。被扶養者として認定されるためには、年間収入が一定額未満であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
- 手続き: 扶養者(家族)の勤務先を通じて、健康保険組合や協会けんぽに申請します。
新しい会社での健康保険加入手続き
転職先が決まっている場合、入社日に健康保険の資格を取得するのが一般的です。
- 手続き: 通常、入社時に会社から健康保険や厚生年金保険の加入に関する案内があり、指示に従って必要書類(マイナンバー、年金手帳、扶養家族がいる場合はその情報など)を提出します。
- 新しい保険証の交付: 手続き完了後、新しい健康保険証が交付されます。手元に届くまでには、通常、数日から2~3週間程度かかることが多いようです。正確な時期については、入社する会社の人事・労務担当者に確認しましょう。
保険の切り替えに関する注意点
スムーズな保険切り替えのために、以下の点に注意しましょう。
- 保険証がない期間(空白期間)を作らない: どの健康保険にも加入していない期間が生じると、その間の医療費は全額自己負担となってしまいます。退職後、速やかにいずれかの手続き(国民健康保険への加入、任意継続、家族の扶養に入る、新しい会社での加入)を行いましょう。
- 手続きの期限を守る: 国民健康保険や任意継続被保険者制度の手続きには、それぞれ期限が設けられています。期限を過ぎると手続きができなくなったり、不利益が生じたりする場合があります。
- 保険料の比較検討: 退職後の選択肢として国民健康保険と任意継続がある場合、それぞれの保険料を試算し、比較検討することが大切です。市区町村役場や健康保険組合に問い合わせて確認しましょう。
- 旧保険証の誤使用は厳禁: 退職後は、以前の会社の保険証は絶対に使用しないでください。
- マイナ保険証の活用: マイナンバーカードを健康保険証として利用登録している場合(マイナ保険証)、転職先での健康保険加入手続きが完了し、その情報がシステムに反映されれば、新しいカード型の保険証が届く前でもマイナ保険証として医療機関で利用できる可能性があります。 従来のカード型の健康保険証は2024年12月2日をもって新規発行が終了しており、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行しています。マイナンバーカードの取得と健康保険証利用の申し込みを済ませておくと、転職時の保険証切り替えがよりスムーズになることが期待されます。
扶養家族がいる場合の保険切り替え
被保険者本人だけでなく、その扶養に入っている家族がいる場合も、健康保険の切り替え手続きが必要です。
- 新しい会社の健康保険に加入する場合: 入社時に扶養家族の情報を会社に申し出て、家族分の保険証も発行してもらいます。
- 国民健康保険に加入する場合: 世帯単位での加入となるため、家族も一緒に国民健康保険に加入します。
- 任意継続被保険者制度を利用する場合: 扶養家族も引き続き被扶養者として継続できます。
- 家族の扶養に入る場合: 被保険者本人と共に、その家族も被扶養者として認定される必要があります。
いずれの場合も、必要な手続きや書類について事前に確認しておきましょう。
まとめ
転職時の健康保険の切り替えは、いくつかの選択肢があり、ご自身の状況や退職から次の入社までの期間などによって最適な方法が異なります。手続きには期限が設けられているものも多いため、退職前から計画的に情報収集を行い、早めに行動することが重要です。
不明な点や疑問点があれば、退職する会社の人事・労務担当者、新しい会社の人事・労務担当者、お住まいの市区町村役場の国民健康保険窓口、または加入していた(あるいは加入する)健康保険組合や協会けんぽに遠慮なく問い合わせて確認しましょう。適切な手続きを行い、安心して新しいキャリアをスタートさせてください。