転職時の源泉徴収票「提出したくない…」その理由と賢明な対処法
転職が決まり、新しい会社への入社準備を進める中で、多くの企業から提出を求められる書類の一つに「源泉徴収票」があります。これは、新しい会社で年末調整を行うために必要なものですが、中には「前職の給与を知られたくない」「提出するのに抵抗がある」といった理由から、提出したくないと考える方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、転職時に源泉徴収票の提出を求められる理由、提出したくない場合の一般的な対処法、そして提出しない場合にどのような影響があるのかについて、分かりやすく解説します。
なぜ転職先に「前職の源泉徴収票」を提出するのか?
年の途中で転職した場合、新しい勤務先(転職先)は、その年の1月1日から退職日までにあなたが前職の会社から受け取った給与額と、そこで源泉徴収された所得税額を合算して、年末調整を行う必要があります。
年末調整は、その年1年間の正しい所得税額を計算し、毎月の給与から源泉徴収された所得税額との過不足を精算するための重要な手続きです。前職の源泉徴収票がないと、転職先の会社はあなたのその年の正確な総所得を把握できず、適切な年末調整を行うことができません。
「源泉徴収票を提出したくない」主な理由とその背景
転職者が源泉徴収票の提出に抵抗を感じる背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 前職の給与を知られたくない:
- 新しい会社での給与交渉に影響するのではないか。
- 前職の給与が低かった場合、能力が低いと見なされるのではないか。
- 逆に高かった場合、過度な期待をされるのではないか。
- 職歴や在籍期間を知られたくない(稀なケース):
- 応募書類に記載した職歴と、源泉徴収票に記載される支払者(会社名)や支払期間に相違があるのではないかと懸念している(ただし、これは正直に申告すべき事項です)。
- 単に手続きが面倒、紛失してしまった:
- 前職の会社に再発行を依頼するのが手間だと感じる。
- 受け取ったはずだが、どこに保管したか分からなくなってしまった。
- プライバシーへの配慮:
- 給与情報は個人的なものであり、新しい会社に詳細を知られることに抵抗がある。
これらの理由は理解できるものですが、源泉徴収票の提出は、多くの場合、税務上の手続きを適正に行うために必要なプロセスです。
源泉徴収票を提出したくない場合の一般的な対処法
源泉徴収票をどうしても転職先に提出したくない場合、あるいは提出できない事情がある場合、一般的に取られる対処法は**「自分で確定申告を行う」**という選択肢です。
- 会社への伝え方:
- 新しい会社の人事・経理担当者に、「前職分の所得については、自身で確定申告を行いますので、年末調整の際には前職の源泉徴収票の提出は控えさせていただきます」といった形で、正直かつ丁寧に伝えましょう。
- 企業によっては、年末調整を会社で行うことを原則としている場合もあるため、まずは相談という形で切り出すのが良いでしょう。
- 確定申告とは:
- 確定申告は、1年間の所得とそれに対する所得税額を計算し、源泉徴収された税金などとの過不足を精算するための手続きです。通常、翌年の2月16日から3月15日の間に、所轄の税務署に対して行います。
- 確定申告を行う場合でも、前職の源泉徴収票は必要: 重要なのは、自分で確定申告を行う場合であっても、前職の源泉徴収票は所得を証明する書類として必要になるという点です。転職先に提出しないというだけで、入手する必要がなくなるわけではありません。
源泉徴収票を提出しない(またはできない)場合の影響
転職先に前職の源泉徴収票を提出しない、あるいは提出できない場合、以下のような影響が考えられます。
- 転職先での年末調整が行えない: 前述の通り、転職先の会社はあなたのその年の正確な総所得を把握できないため、適切な年末調整を行うことができません。
- 自分で確定申告を行う手間が発生する: 年末調整を受けられない場合、翌年に自分で確定申告を行う必要があります。これには、必要書類の準備や申告書の作成といった手間と時間がかかります。
- 税金の追徴や還付の遅れ: 確定申告を怠ったり、誤った内容で申告したりすると、納めるべき税金が不足している場合は追徴課税や延滞税が発生する可能性があります。逆に、払いすぎている場合は還付を受けられますが、手続きをしないとその還付も受けられません。
- 会社からの印象(場合による): 「なぜ提出したくないのだろうか?」と会社側に不要な憶測や不信感を与えてしまう可能性もゼロではありません。理由を正直に伝え、自分で確定申告を行う旨をきちんと説明することが大切です。
源泉徴収票の入手方法:もし手元にない場合は?
源泉徴収票が手元にない場合は、以下の方法で入手する必要があります。
- 前職の会社に再発行を依頼する:
- 紛失した場合や、まだ受け取っていない場合は、退職した会社の人事部や経理部に連絡し、再発行を依頼しましょう。会社には、退職者に対して源泉徴収票を交付する義務があります。
- 依頼する際は、氏名、在籍時の部署、退職年月日、再発行を希望する理由などを伝え、丁寧にお願いしましょう。
- 会社が発行してくれない場合:「源泉徴収票不交付の届出書」を税務署へ提出
- 会社に依頼しても対応してもらえない場合や、会社が倒産して連絡が取れないといった場合は、所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することができます。この届出書を提出すると、税務署から会社に対して発行を指導してくれることがあります。
知られたくない情報はどこまで?源泉徴収票で分かること
源泉徴収票には、主に以下の情報が記載されています。
- 支払金額(その年の給与・賞与の総額)
- 給与所得控除後の金額
- 所得控除の額の合計額
- 源泉徴収税額
- 扶養親族の状況(氏名、人数など)
- 社会保険料等の金額
- 生命保険料の控除額、地震保険料の控除額など(年末調整で申告した場合)
- 支払者(会社)の名称、所在地、法人番号
前職の具体的な業務内容や役職、評価といった詳細な人事情報までは記載されません。
まとめ:「自分で確定申告」が基本の対処法、ただし源泉徴収票は必要
転職時に前職の源泉徴収票を新しい会社に提出したくない場合、**「自分で確定申告を行う」**というのが一般的な対処法です。その旨を新しい会社に伝えれば、通常は理解してもらえます。
ただし、自分で確定申告を行う場合でも、前職の源泉徴収票は所得を証明するために必ず必要になります。もし手元にない場合は、速やかに前職の会社に再発行を依頼しましょう。
源泉徴収票は、あなたの所得と納税に関する重要な書類です。その取り扱いについて正しく理解し、適切な手続きを行うことで、スムーズな税務処理と、新しい職場での円滑なスタートに繋げましょう。不明な点があれば、転職先の人事・経理担当者や、税務署、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。