転職と源泉徴収票:「合算」の意味と年末調整・確定申告での正しい扱い方
転職活動を終え、新しい会社での生活が始まる際、多くの人が直面するのが税金の手続きです。特に年の途中で転職した場合、前職の会社から受け取る「源泉徴収票」の扱いについて、「なぜ新しい会社に提出するの?」「複数の会社から源泉徴収票がある場合はどうすればいいの?」「合算ってどういうこと?」といった疑問が生じることがあります。
この記事では、転職時に受け取る源泉徴収票の役割や、なぜ「合算」して年末調整や確定申告を行う必要があるのか、その基本的な仕組みと具体的な手続きの流れ、そして注意点などを分かりやすく解説します。スムーズな税務処理のために、ぜひ参考にしてください。
源泉徴収票とは?その役割を再確認
まず、源泉徴収票がどのような書類で、どんな役割を持つのかを簡単に押さえておきましょう。
源泉徴収票は、1年間に会社から支払われた給与・賞与の総額(支払金額)、給与所得控除後の金額、所得控除の額の合計額、そしてその年に源泉徴収された所得税の額などが記載された書類です。
これは、会社が従業員に代わって所得税を計算し、毎月の給与から天引きして国に納める「源泉徴収制度」に基づいており、「あなたがその年の1月1日から12月31日までの間に、その会社からいくら給料をもらい、いくら所得税をあらかじめ納めたか」を証明する公式な書類となります。
なぜ転職時に前職の源泉徴収票が必要で、「合算」するのか?
年の途中で転職し、年末時点で新しい会社に在籍している場合、新しい勤務先(転職先)が、その年の年末にあなたの「年末調整」を行うために、前職の源泉徴収票が必要になります。
年末調整とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間の給与所得について、毎月の給与から源泉徴収された所得税の合計額と、年間の正しい所得税額とを比較し、その過不足を精算する手続きです。
新しい会社は、あなたがその年の途中で他の会社から給与を得ていたかどうか、そしてその金額を知ることができません。そのため、前職の源泉徴収票を提出することで、転職先の会社があなたのその年の「全ての給与所得」を把握し、それらを「合算」して適切な年末調整を行うことができるのです。
「合算」の具体的な意味:
- 支払金額の合算: 前職の源泉徴収票に記載された「支払金額」と、新しい会社でその年に支払われた給与の総額を合計します。
- 源泉徴収税額の合算: 同様に、前職で源泉徴収された所得税額と、新しい会社で源泉徴収された所得税額を合計します。
- 社会保険料等の金額の合算: 前職で支払った社会保険料と、新しい会社で支払った社会保険料を合計します。
これらの合算された情報に基づいて、新しい会社が年間の正しい所得税額を計算し、過不足を調整します。
提出が必要なケース:
- 年の途中で退職し、同じ年内に新しい会社に転職した場合: 新しい会社で年末調整を受けるために、前職の源泉徴収票を提出し、所得を合算してもらう必要があります。
- 年内に複数回転職した場合: その年に給与の支払いを受けた全ての会社から発行された源泉徴収票を、年末時点で在籍している会社に提出し、全ての所得を合算して年末調整を行ってもらいます。
年末調整で合算できない場合や、年末調整を受けなかった場合は「確定申告」で合算
以下のような場合は、会社での年末調整で前職分を合算できず、あなた自身で確定申告を行い、1年間の所得を全て合算して税金の精算を行う必要があります。
- 転職先に前職の源泉徴収票を提出できなかった、または提出が年末調整の期限に間に合わなかった場合。
- 退職した年内に再就職しなかった(年末時点でどの会社にも在籍していなかった)場合。
- 給与所得以外の所得(副業など)が年間20万円を超える場合。
- 医療費控除や寄付金控除、住宅ローン控除(1年目)など、年末調整では対応できない所得控除を受けたい場合。
確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に行います。確定申告を行う際にも、給与所得があった全ての会社から発行された源泉徴収票が必要となり、それぞれの源泉徴収票に記載された「支払金額」や「源泉徴収税額」、「社会保険料等の金額」などを合算して申告書に記入します。
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、複数の源泉徴収票の内容を指示に従って入力していくことで、自動的に金額が合算され、申告書を作成することができます。
源泉徴収票の入手と提出に関する注意点
- 発行タイミング:
- 在職中の場合: 通常、その年の12月の年末調整後、12月の給与明細と一緒か翌年1月初旬頃に交付されます。
- 年の途中で退職した場合: 会社は退職者に対し、退職日から1ヶ月以内に源泉徴収票を交付する義務があります。
- 内容確認: 受け取った源泉徴収票は、氏名、支払金額、源泉徴収税額などに誤りがないか必ず確認しましょう。
- 紛失した場合: 速やかに発行元の会社に再発行を依頼してください。
- 会社から発行されない場合: まずは会社に丁寧に催促し、それでも対応してもらえない場合は、所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出して相談できます。
- 提出期限: 新しい会社で年末調整を受ける場合は、会社が指定する提出期限(通常10月~11月頃)までに前職の源泉徴収票を提出する必要があります。
まとめ:源泉徴収票の「合算」は正しい税金計算のための重要なプロセス
転職時に受け取る前職の源泉徴収票は、新しい勤務先での年末調整や、ご自身で行う確定申告において、その年のあなたの正確な所得と納めるべき税金を計算するために不可欠な重要書類です。「合算」という作業を通じて、1年間の全ての給与所得に基づいた適切な税金の精算が行われます。
退職する際には、会社から確実に源泉徴収票を受け取り、紛失しないように大切に保管しましょう。そして、新しい会社から提出を求められた際には速やかに提出するか、あるいは自身で確定申告を行う準備をすることが、スムーズな税務手続きに繋がります。不明な点があれば、遠慮なく発行元の会社や転職先の人事・経理担当者、あるいは税務署や税理士などの専門家に確認することが大切です。