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新生銀行のポイズンピルとは?SBIとの攻防から学ぶ買収防衛策のリアル

岩下隼人
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株式投資の世界では、時に企業の経営権を巡って、ドラマのような激しい攻防が繰り広げられます。2021年に日本の金融業界を大きく揺るがした**「SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的TOB」**は、まさにその代表例と言えるでしょう。

この攻防の最大の焦点となったのが、新生銀行が発動しようとした**「ポイズンピル(買収防衛策)」**でした。

この記事では、教科書的な解説だけでは分からない、実際のM&Aの現場でポイズンピルがどのように使われ、どのような結末を迎えたのか、この「新生銀行VS SBI」のリアルな攻防を通して、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

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なぜ新生銀行はポイズンピルを導入しようとしたのか?

全ての始まりは、2021年9月。ネット金融大手のSBIホールディングス(以下、SBI)が、新生銀行の経営陣の同意を得ないまま、同行の株式を買い集めて子会社化することを目指す**「敵対的TOB(株式公開買付け)」**を発表したことでした。

これに対し、新生銀行の経営陣は「SBIによる一方的な買収は、当社の企業価値、ひいては株主全体の利益を損なうものだ」と強く反発。

この奇襲とも言えるTOBに対抗し、買収の是非を株主自身に問うための時間を確保する目的で、買収防衛策、すなわちポイズンピルの導入準備を開始したのです。

新生銀行が用意したポイズンピルの仕組み

新生銀行が用意したポイズンピルは、一般的な仕組みのものでした。その内容は、

「SBI”以外”のすべての株主に対して、新しい株式を格安で手に入れられる権利(新株予約権)を無償で割り当てる」

というものです。

もしこのポイズンピルが発動されれば、市場に出回る株式数が一気に増加し、SBIが買い集めた株式の価値の割合は大幅に薄まってしまいます(希薄化)。そうなれば、SBIは当初の計画よりもはるかに多くの資金を投じなければならなくなり、買収は極めて困難になります。

新生銀行の経営陣は、この強力な「毒薬」を切り札として、その発動の是非を問うための**「臨時株主総会」**の開催を決定しました。

攻防のクライマックス:株主総会を巡る駆け引き

ここから、物語はクライマックスへと向かいます。臨時株主総会での「議決権」という名の票を巡って、ポイズンピルを発動したい新生銀行と、それを阻止したいSBIとの間で、株主を味方につけるための激しいアピール合戦が繰り広げられました。

  • 新生銀行側の主張:「この防衛策は、SBIの不当な買収から株主の皆様の利益を守るためのものです!」
  • SBI側の主張:「この防衛策は、公的資金を返済できていない現経営陣が、その地位を守るための『保身策』に過ぎません!」

両者の主張がぶつかる中、勝敗のカギを握ると見られていたのが、新生銀行の大株主であった**国(預金保険機構など)と、国内外の機関投資家に大きな影響力を持つ「議決権行使助言会社」**の動向でした。

衝撃の結末:新生銀行、ポイズンピルを撤回

株主の票を巡る攻防が激しさを増す中、臨時株主総会の開催を目前に控えた2021年11月24日、事態は衝撃的な結末を迎えます。

新生銀行が、ポイズンピルの導入を断念し、撤回することを発表したのです。

その理由は、臨時株主総会を開いても、ポイズンピル発動の承認を得られる見込みが立たなくなったためでした。特に、海外の大手議決権行使助言会社が相次いで「防衛策に反対」を推奨したこと、そして最終的に大株主である国からも賛同を得られない見通しとなったことが決定的でした。

「盾」を失った新生銀行は、SBIによるTOBを受け入れざるを得なくなり、その後、TOBは成功。新生銀行はSBIグループの一員となり、後に「SBI新生銀行」として新たなスタートを切ることになりました。

この事例から投資家が学ぶべきこと

この日本金融史に残る攻防は、私たち投資家に多くの重要な教訓を与えてくれます。

  1. 「株主の意思」が最終決定権を持つ経営陣がいくら防衛策を掲げても、最終的にそれを支持するかを決めるのは株主です。特に、機関投資家や国の意向が、会社の運命を左右する力を持つことが示されました。
  2. ポイズンピルはもはや万能薬ではない企業の透明な経営(コーポレート・ガバナンス)が重視される現代において、「経営者の保身」と見なされかねないポイズンピルは、株主の賛同を得ることが非常に難しくなっています。まさに「伝家の宝刀」は抜きづらくなっているのです。
  3. 敵対的買収は株価を動かす買収を巡る攻防は、TOB価格の引き上げ期待などで株価を大きく動かす要因となります。実際、この期間中、新生銀行の株価は大きく変動しました。しかし、その結末を正確に予測することは極めて困難であり、ハイリスクな投資対象であることを認識すべきです。

まとめ

  • 新生銀行は、2021年にSBIによる敵対的TOBに対抗するため、ポイズンピルの導入を計画しました。
  • しかし、発動の是非を問う臨時株主総会を前に、大株主である国や機関投資家からの支持を得られないと判断し、ポイズンピルを撤回しました。
  • 結果、SBIによるTOBは成功し、新生銀行はSBIグループ傘下に入りました。
  • この事例は、現代のM&Aにおいて株主の意思がいかに重要か、そしてポイズンピルという防衛策がもはや万能ではないことを象徴する出来事となりました。

実際の事例を知ることで、株式投資の世界で起きているダイナミックな動きをより深く理解することができるでしょう。

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岩下隼人
岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
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