投資 攻略
PR

村上ファンドはなぜ「優良企業」ヒューリックに投資したのか?M&Aの裏側で起きたプロの投資戦略

岩下隼人
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

「物言う株主(アクティビスト)」として知られる村上ファンド。彼らの投資先といえば、「PBR1倍割れ」や「非効率な経営」といった課題を抱える企業がそのほとんどでした。しかし、その彼らが、株主還元の「優等生」とも言える不動産大手「ヒューリック」の大株主として、突如として登場したことがあります。

「なぜ、村上ファンドが優良企業のヒューリックに?」

「彼らの狙いは、一体何だったのか?」

この記事では、株式投資を始めたばかりの初心者の方にも分かりやすく、この一見すると不可解な投資の裏側を紐解き、プロの投資家が実践する、より高度な「イベント・ドリブン投資」という戦略を解説していきます。

スポンサーリンク

なぜターゲットに?株主還元の「優等生」ヒューリック

まず、この物語の舞台となるヒューリックが、いかにアクティビストの典型的なターゲット像からかけ離れていたかを見ていきましょう。

ヒューリックは、都心の一等地のオフィスビルなどを中心に、質の高い不動産を数多く保有する、日本を代表する不動産会社の一つです。そして何より、株式市場では**株主還元に非常に積極的な「優等生」**として知られています。

  • 高いROE(自己資本利益率):株主から預かった資本を、非常に効率的に使って利益を生み出す、高い収益力を誇ります。
  • 積極的な増配:長年にわたり、連続して配当を増やし続けており、株主への利益還元を経営の最重要課題の一つと公言しています。

PBR1倍割れの是正や、株主還元の強化を声高に叫ぶ村上ファンド側にとって、ヒューリックは本来「物言い」をつけるべき弱点がほとんど見当たらない、非常に手ごわい相手のはずでした。では、なぜ彼らは、そんなヒューリックの株を買い集めたのでしょうか。その答えは、ヒューリックの「中」ではなく、「外」にありました。

本当の舞台は別の会社 – 日本ユニシスを巡る攻防

村上ファンド側がヒューリックに注目した2021年、実は市場では、別のM&A(合併・買収)が大きな注目を集めていました。それは、印刷業界の巨人「大日本印刷(DNP)」による、ITサービス大手「日本ユニシス(現・BIPROGY)」へのTOB(株式公開買付け)でした。

そして、この買収劇に、突如としてヒューリックが「待った」をかける可能性が浮上します。DNPの買収案に対抗する「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として、ヒューリックが日本ユニシスへの対抗TOBを仕掛けるのではないか、と報じられたのです。

村上ファンドの戦略:「イベント・ドリブン投資」

ここからが、プロの投資家の真骨頂です。村上ファンド側は、ヒューリックの経営そのものを変えようとしたわけではありません。彼らが狙ったのは、「ヒューリックが、日本ユニシスの買収合戦に参戦するかもしれない」という、M&Aという「イベント(出来事)」そのものだったのです。

このような、特定のイベント(M&A、事業再編、新製品の発表など)の発生を予測し、それが株価に与える影響に賭ける投資手法を「イベント・ドリブン投資」と呼びます。

もし、ヒューリックが本当に対抗TOBを仕掛ければ、市場では買収合戦が過熱し、関係する企業の株価は大きく乱高下します。彼らは、その混乱の中で生まれるであろう、大きな利益のチャンスを狙っていたのです。

攻防の結末と、村上ファンドの「次の一手」

最終的に、ヒューリックによる日本ユニシスへの大規模な対抗TOBは、本格的なものには発展しませんでした。買収合戦という「イベント」が終息に向かうと、村上ファンド側がヒューリックの株を持ち続ける理由はなくなります。

彼らは、その後、保有していたヒューリックの株式を売却し、静かに次のターゲットへと向かっていきました。この一連の動きは、彼らの投資が、特定の企業への長期的な思い入れではなく、明確な「投資シナリオ(仮説)」と「出口戦略」に基づいた、極めてドライで戦略的なものであったことを示しています。

この高度な投資戦略から個人投資家が学ぶべきこと

このヒューリックの事例は、私たち個人投資家に、より高度な投資の世界の扉を開けてくれます。

教訓①:「イベント・ドリブン」という思考法を知る

株式投資は、単に「良い会社」や「割安な会社」を探すだけではありません。プロの投資家は、「これから、この会社に何が起こるか?」という「イベント」を予測し、投資を行います。M&Aや事業再編、新薬の開発承認など、株価を大きく動かす「きっかけ(カタリスト)」は何か、という視点を持つことは、投資の幅を大きく広げます。

教訓②:企業間の「見えない繋がり」を読み解く

この事例では、ヒューリックの背後には、大株主であるみずほ銀行の存在がありました。そして、そのヒューリックが、DNPが仕掛けた日本ユニシスの買収劇に関与しました。このように、大企業は複雑なネットワークで繋がっています。ニュースを読む際に、登場する企業間の「見えない繋がり」を想像する力は、イベントを予測する上で役立ちます。

教訓③:投資には「シナリオ」と「出口」を持つ

村上ファンド側は、「ヒューリックが買収合戦に参戦する」というシナリオに賭け、そのシナリオが実現しないと見るや、速やかに「撤退(利益確定)」しました。私たち個人投資家も、「なぜ、この株を買うのか?」という明確な「シナリオ(投資理由)」と、「どうなったら、この株を売るのか?」という「出口戦略」を、あらかじめ持っておくことが非常に重要です。

まとめ

村上ファンドとヒューリックの物語は、典型的な「物言う株主 vs 経営陣」という構図ではなく、M&Aという大きなイベントの裏側で、プロの投資家が繰り広げる、高度な「イベント・ドリブン」投資の一例でした。

それは、株主還元の「優等生」のような企業でさえ、特定の「イベント」が発生する局面では、プロの投資家にとって魅力的な投資対象になりうることを示しています。

企業のファンダメンタルズ分析に加え、「これから、この会社に何が起こるだろう?」という、未来を予測するストーリーテリングの視点。それを持つことが、あなたをより立体的で、深みのある投資家へと成長させてくれるはずです。

スポンサーリンク
ABOUT ME

Warning: Undefined array key 0 in /home/royal0530/royalfund.xyz/public_html/wp-content/themes/jinr/include/shortcode.php on line 306
岩下隼人
岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
スポンサーリンク
Recommend
こちらの記事もどうぞ
記事URLをコピーしました