村上ファンドとダルトン、敵か味方か?二大「物言う株主」の共闘と競争
株式市場では、時に一つの企業を舞台として、複数の「物言う株主(アクティビスト)」が、それぞれの思惑を持って交錯することがあります。
日本のアクティビストの代名詞である「旧村上ファンド系」の投資家たち。そして、米国に本拠を置き、日本企業に対して長年厳しい目を向けてきた、もう一つの有力アクティビスト「ダルトン・インベストメンツ」。
今、この二大アクティビストが、奇しくも「フジ・メディア・ホールディングス」という同じ企業の主要株主として、大きな注目を集めています。
「彼らは、手を組んで会社と戦う『味方』なのか?」
「それとも、主導権を争う『敵』なのか?」
この記事では、株式投資を始めたばかりの初心者の方にも分かりやすく、この二大「物言う株主」の複雑な関係性と、彼らが繰り広げる高度な戦略ゲームについて解説していきます。
結論:目的は同じ、でも「呉越同舟」- 共闘も競争もする関係
まず結論からお伝えすると、旧村上ファンド系とダルトン・インベストメンツは、正式なパートナーや союзник(同盟者)ではありません。彼らは、それぞれが独立した判断で投資を行う、個別のプレイヤーです。
しかし、彼らはしばしば同じ企業の株主として登場します。その関係は、まさに中国の故事にある「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」という言葉がぴったりです。
呉越同舟とは?
仲の悪い者同士(呉の国と越の国の人々)が、同じ舟に乗り合わせ、共通の敵(嵐)に立ち向かう、という意味の言葉です。
彼らにとって、共通の敵とは「非効率な経営を行い、企業価値を損なっている経営陣」です。そして、舟を沈ませる嵐とは「株価の長期的な低迷」です。この共通の敵に立ち向かうという一点においては、彼らは「共闘」します。しかし、船の進め方や、嵐が去った後の宝の分け方(経営改革の具体的な手法)については、意見が異なり、「競争」することもあるのです。
舞台は「フジテレビ」- 二大アクティビストの競演
この「呉越同舟」の関係が、最も分かりやすく表れているのが、現在進行形の「フジ・メディア・ホールディングス」を巡る攻防です。
両者とも、「フジ・メディアHDは、PBRが低く、価値ある資産を持ちながら、株価が不当に安い」という点では、認識が一致しています。しかし、その「処方箋」は、微妙に異なっています。
- ダルトン側の要求:「経営陣の刷新による、ガバナンス改革」ダルトンは、SBIホールディングスの北尾吉孝氏などを、新たな取締役候補として送り込む株主提案を行っています。彼らは、まず「経営する人」を入れ替えることで、会社の意思決定の仕組み(コーポレート・ガバナンス)そのものを、根本から改革しようとしているのです。
- 村上ファンド側の狙い:「不動産事業の分離による、資産価値の解放」一方、筆頭株主である村上ファンド側は、フジ・メディアHDが保有するお台場の本社ビルなどの「不動産事業」を、会社から切り離して独立させる(スピンオフ)ことで、隠れた資産価値を直接的に株価に反映させよう、という考えを持っていると報じられています。
このように、「経営改革」というゴールは同じでも、そこに至るアプローチが異なるのです。彼らは、経営陣に反対するという点では協力しつつも、会社の未来像を巡って、互いに主導権を争っている、という複雑な関係にあります。
過去には「グローセル」での間接的な攻防も
この二者の関係は、過去にも見られました。2023年に起きた、電子部品商社「グローセル」の買収劇です。
この時、最初にグローセルに友好的なTOB(株式公開買付け)を仕掛けたのは、ダルトンでした。しかし、旧村上ファンド側が市場で株を買い集め、「そのTOB価格は安すぎる」と無言の圧力をかけたことで、ダルトンのTOBは不成立に終わります。結果として、より高い価格を提示する「ホワイトナイト(マクニカHD)」が登場し、村上ファンド側は高値で株を売却して利益を得ました。
この事例では、両者は間接的に「敵対」し、村上ファンド側の行動が、結果的にダルトンの計画を頓挫させた形となりました。
この「二大株主」の物語から個人投資家が学ぶべきこと
こうしたプロの投資家たちの高度な戦略ゲームは、私たち個人投資家にも多くの重要な教訓を与えてくれます。
教訓①:「物言う株主」は、一枚岩ではない
ニュースで「物言う株主が経営陣に要求」と報じられた際、そのアクティビストが「誰」で、「他にどんな有力な株主がいるのか」を確認することが重要です。アクティビストごとに、その戦略や要求内容は大きく異なります。
教訓②:「株主提案」を読み解く
アクティビストが株主総会に提出する「株主提案」や、その理由を説明した資料は、彼らが会社をどう分析し、何を問題視しているのかを知るための、最高の「生きた教科書」です。企業のIRサイトなどで公開されているこれらの資料を読み解くことで、企業分析の力が格段に向上します。
教訓③:「競争」が、株主の利益を生む
今回のフジ・メディアHDの事例のように、複数のアクティビストが、それぞれのやり方で会社に改革を迫る「競争状態」は、経営陣に大きなプレッシャーを与え、結果として、より大胆な株主還元策などを引き出す可能性があります。個人投資家にとっては、むしろ歓迎すべき状況と言えるかもしれません。
まとめ
村上ファンドとダルトン・インベストメンツ。この二大アクティビストの関係は、単純な「敵」でも「味方」でもない、共通の目的のために同じ舟に乗る、プロフェッショナル同士の、したたかで複雑な関係です。
彼らは、時に協力して経営陣と戦い、時に自らの信じる改革案の主導権を巡って、互いに競争します。
こうした市場の「巨人」たちの高度な頭脳戦を追いかけることは、単なるゴシップではありません。それは、企業の経営戦略や、コーポレート・ガバナンス、そして株主価値の創造といった、株式投資の最も本質的なテーマを、リアルタイムで学ぶことができる、またとない機会なのです。
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