転職・退職時の「のし」マナー完全ガイド|お礼・餞別・お祝い返しの書き方
転職や退職は、これまでのキャリアに区切りをつけ、新たな道へと進む大切な節目です。お世話になった職場の方々への感謝の気持ちを伝えたり、新しい門出を祝ったりする際に、贈り物をすることがあります。そんな時、品物に添える「のし(熨斗)」の正しいマナーや書き方について、迷うことも多いのではないでしょうか。
「御礼」「おはなむけ」「内祝」など、どのような表書きを選べば良いのか、水引の種類は?この記事では、転職や退職といった様々なシチュエーションに応じた「のし」の基本的な知識から具体的な書き方まで、分かりやすく解説していきます。心を込めた贈り物が、相手に失礼なく、そして気持ちよく伝わるように、正しいマナーを身につけましょう。
そもそも「のし」とは?基本的な知識をおさらい
まず、私たちが普段「のし」と呼んでいるものについて、基本的な知識を確認しておきましょう。
- 熨斗(のし): 元々は、アワビを薄く伸ばして乾燥させた「熨斗鮑(のしあわび)」のことを指し、古来より縁起物として贈答品に添えられてきました。現在では、その熨斗鮑を模した黄色い紙(または印刷されたもの)が、祝儀袋やのし紙の右肩についている飾りのことを指します。生もの(肉や魚など)を贈る場合は、意味が重複するため熨斗は付けないのが一般的です。
- 水引(みずひき): 贈答品や祝儀袋にかける飾り紐のことです。結び方や色によって意味合いが異なります。
- 紅白蝶結び(花結び): 何度あっても良いお祝い事やお礼に使います。結び目が簡単に解けて何度も結び直せることから、「繰り返されることを願う」という意味があります。出産祝い、入学祝い、お中元、お歳暮、そして今回のような退職時のお礼や餞別などにも用いられます。
- 紅白結び切り: 結婚祝いや快気祝い、お見舞いなど、一度きりであってほしいお祝い事や、繰り返したくないことに使います。固く結ばれて解けにくいことから、「二度と繰り返さない」という意味があります。
- 黒白・黄白結び切り: 弔事(お悔やみ事)に使います。
- のし紙(熨斗紙): 上記の熨斗と水引が印刷された紙のことを指します。品物に直接かけるか、包装紙の上からかけるのが一般的です。
【退職時】お世話になった職場へのお礼の品につける「のし」
長年お世話になった職場を去る際には、感謝の気持ちを込めてお菓子などの品物を贈ることが多いでしょう。その際に添える「のし」のマナーです。
- のし紙の選び方: 退職は新たな門出であり、これまでの感謝を伝えるものなので、紅白の蝶結びの水引を選びます。熨斗も付いているものを選びましょう。
- 表書きの書き方(水引の上に書く言葉):
- 「御礼」: 最も一般的で、どのような相手にも使える感謝のしるしです。
- 「感謝」: よりストレートに感謝の気持ちを伝えたい場合に用います。
- 「御挨拶」: 最終出社日に挨拶回りをしながら渡す場合などに適しています。
- 「お世話になりました」: 親しみを込めて感謝を伝えたい場合に用いることもありますが、よりフォーマルな場では「御礼」が無難です。
- 名前の書き方(水引の下に書く自分の名前):
- 自分のフルネームを、表書きよりも少し小さめに書くのが一般的です。苗字だけでも間違いではありませんが、フルネームの方がより丁寧な印象になります。
- 会社名や部署名を名前の右肩に小さく添えても構いません。例:「株式会社〇〇 営業部 △△(自分の名前)」
- 品物の選び方のポイント: 職場全員に行き渡るように、個包装されていて分けやすいお菓子などが定番です。日持ちするもの、好き嫌いが分かれにくいものを選ぶと良いでしょう。
- 渡すタイミングとマナー: 最終出社日、またはその数日前に、朝礼後や終業前など、皆さんが集まりやすいタイミングで、これまでお世話になった感謝の言葉と共に直接手渡すのが理想です。人数が多い場合は、代表の方(上司など)にまとめて渡し、皆さんで分けていただくようお願いするのも良いでしょう。
【餞別】退職する同僚や上司へ贈る品物につける「のし」(自分が贈る側)
退職して新しい道へ進む同僚や上司へ、これまでの感謝と今後の活躍を願って餞別を贈る場合の「のし」のマナーです。
- のし紙の選び方: こちらも新たな門出を祝う意味合いがあるため、紅白の蝶結びの水引を選びます。
- 表書きの書き方:
- 「御餞別(おせんべつ)」: 一般的ですが、目上の方へ贈る際には「餞別」という言葉が「別れを惜しむ」という意味合いを含むため、失礼にあたるとされることもあります。同僚や部下へ贈る場合に用いるのが無難です。
- 「御礼」: これまでの感謝の気持ちを込めて贈る場合に適しています。どのような相手にも使えます。
- 「おはなむけ」: 新たな門出を祝福し、今後の成功を祈る気持ちを表す言葉です。「餞」の字を使わないため、目上の方へも安心して使えます。
- 「感謝」: ストレートに感謝を伝えたい場合に用います。
- 「祝 御栄転」/「祝 御昇進」: 転職先で役職が上がるなど、明らかな栄転・昇進の場合に使います。
- 名前の書き方:
- 個人で贈る場合: 自分のフルネームを表書きより少し小さめに書きます。
- 複数人(2~3名程度)で贈る場合: 水引の下、中央から右へ、役職や年齢の高い順に名前を連ねます。特に順位がない場合は五十音順でも構いません。
- 大人数で贈る場合: 代表者の名前を中央に書き、その左下に「外一同(ほか いちどう)」と書きます。または、「〇〇部一同」「有志一同」などとグループ名を記載し、別紙に全員の名前を書いて品物に添えるのが一般的です.
【転職祝いのお返し】内祝いの「のし」
もしあなたが転職祝いをいただいた場合、そのお返し(内祝い)をするのが一般的なマナーです。
- お祝いをいただいたらお返しは必要? はい、基本的にはお返し(内祝い)をするのがマナーとされています。ただし、餞別として現金をいただいた場合などは、必ずしもお返しが必要でないこともあります。相手との関係性や地域の慣習なども考慮しましょう。
- のし紙の選び方: お祝いに対するお返しなので、紅白の蝶結びの水引を選びます。
- 表書きの書き方:
- 「内祝」: 最も一般的な表書きです。
- 「御礼」: お祝いをいただいたことへの感謝の気持ちを表します。
- 名前の書き方: 水引の下に、自分のフルネームを書きます。
- お返しを贈るタイミング: 新しい職場に慣れ、生活が落ち着いた頃(一般的には入社後1ヶ月以内が目安)に贈るのが良いでしょう。あまり遅くなりすぎないように注意しましょう。
新しい会社への入社時の手土産とのし(補足的に)
新しい会社へ入社する際に、挨拶として手土産を持参するかどうかは、企業の文化や慣習によって異なります。基本的には必須ではありません。 もし持参する場合は、菓子折りなどが一般的です。
その際、のしを付けるかどうかですが、これも必須ではありません。大げさにしたくない場合は、包装紙のみで、のしは付けない方が自然なことも多いです。もし付けるのであれば、紅白の蝶結びの水引で、表書きは**「御挨拶」**とし、水引の下に自分の名前を書きます。
「のし」に関するよくあるQ&A
Q1. のしは絶対に必要ですか?
A1. 必ずしも全ての贈答品にのしが必要というわけではありません。特に親しい間柄でのカジュアルな贈り物の場合は、リボンやメッセージカードで代用することも可能です。しかし、職場などフォーマルな場での贈り物や、目上の方への贈り物には、のしを付けるのが丁寧なマナーとされています。
Q2. 餞別などで現金を贈る場合、内袋(中袋)の書き方は?
A2. 現金を贈る場合は、祝儀袋を使用します。内袋(中袋)の表面中央に「金〇萬円」のように金額を漢数字で書き、裏面の左下に自分の住所と氏名を書きます。
Q3. プチギフトのような小さなものにも「のし」は必要ですか?
A3. 小さな品物で、通常ののし紙をかけるのが難しい場合は、「短冊のし」や「シールのし」といった略式のものを使用しても構いません。表書きと名前を記載します。
Q4. 表書きや名前を書く際の墨の色は?
A4. お祝い事やお礼など、慶事ののしには、濃い黒色の墨(筆ペンや毛筆)で書くのがマナーです。薄墨は弔事の際に用います。
まとめ:転職・退職時の「のし」は、感謝やお祝いの気持ちを形にする大切なマナー。相手や状況に合わせて適切な「のし」を選び、心を込めて贈り物をしよう。
転職や退職という人生の節目において、お世話になった方々へ感謝の気持ちを伝えたり、新しい門出を祝ったりする際に添える「のし」。その選び方や書き方には、相手への敬意や思いやりが表れます。
難しく感じるかもしれませんが、基本的なルールを理解し、相手や状況に合わせて適切な「のし」を選ぶことで、あなたの気持ちはより深く、そして正しく伝わるはずです。心を込めた贈り物と共に、良好な人間関係を築き、円満な区切りと新たなスタートを迎えましょう。