転職で年収アップ、相場はどれくらい？成功の鍵と交渉のポイント

転職を考える際、多くの方にとって大きなモチベーションの一つとなるのが「年収アップ」ではないでしょうか。現在の収入に満足していない、あるいは自身のスキルや経験をもっと高く評価してくれる環境を求めたい、そう考えるのは自然なことです。しかし、実際に転職によって年収がどれくらい上がるものなのか、その「相場」は一体どの程度なのでしょうか。

この記事では、転職における年収アップの現実的な見込みや、年収が変動する要因、そして希望する年収を実現するための戦略や交渉のポイントについて詳しく解説していきます。

転職による年収アップの「相場」は存在するのか？

まず結論からお伝えすると、転職による年収アップに関して、明確な「相場」というものは存在しません。 なぜなら、年収の変動幅は、個人のスキルや経験、年齢、転職する業界や職種、企業の規模や業績、そしてその時々の経済状況や採用市場の動向など、非常に多くの要因によって左右されるからです。

とはいえ、一般的な傾向として、どの程度の年収アップが見込めるのか、気になる方も多いでしょう。各種調査や転職市場の動向を見ると、以下のような声が聞かれます。

• 現状維持～10%程度のアップ: これまでの経験やスキルが評価され、同業種・同職種へスムーズに転職できた場合に見られるケースです。
• 10%～20%程度のアップ: 即戦力としての高いスキルや専門性、あるいはマネジメント経験などが評価され、より責任のあるポジションに就いた場合などに期待できることがあります。
• 20%以上の大幅アップ: これは比較的レアケースと言えます。非常に高い専門性や希少なスキルを持つ人材、あるいはヘッドハンティングによる引き抜き、急成長中のベンチャー企業で重要な役割を担う場合など、特別な条件が揃った際に実現する可能性があります。

厚生労働省が発表する「雇用動向調査」などでは、転職入職者の賃金変動状況が示されており、転職によって賃金が増加した人の割合やその増減幅のデータを見ることができます。例えば、令和4年の調査では、転職入職者のうち賃金が増加した割合は34.6％（うち10％以上の増加は20.0％）、減少した割合は35.2％（うち10％以上の減少は25.7％）、変わらなかった割合は29.3％となっています。

これらのデータはあくまで全体の平均的な傾向であり、個々のケースでは大きく異なることを理解しておく必要があります。

年収アップを実現しやすい転職のパターン・要因

では、どのような場合に年収アップが期待できるのでしょうか。一般的に、以下のようなパターンや要因が挙げられます。

• 経験・スキルが活かせる同業種・同職種へのステップアップ転職: これまで培ってきた専門性や実績がダイレクトに評価され、即戦力として期待されるため、年収アップに繋がりやすいです。
• 成長産業・業績好調な企業への転職: 業界全体が伸びていたり、企業の業績が良かったりする場合、企業は優秀な人材獲得のためにより良い条件を提示する傾向があります。
• 専門性の高いスキルや希少性の高い資格を保有している場合: IT分野の高度な技術、特定の言語能力、難関資格などは、市場価値が高く評価され、年収アップの大きな武器となります。
• マネジメント経験やリーダーシップ経験がある場合: 部下をまとめ、プロジェクトを推進した経験は、より上位の役職や責任あるポジションへの転職を可能にし、年収増に繋がることがあります。
• 効果的な自己PRと実績のアピール: 自身のスキルや経験が、応募企業でどのように貢献できるのかを具体的な実績とともに明確に伝えられることが重要です。
• 戦略的な年収交渉を行った場合: 自身の市場価値を的確に把握し、適切なタイミングと方法で交渉することで、提示額からの上乗せが期待できます。
• 人材不足が深刻な業界・職種: いわゆる「売り手市場」の状況では、企業側も人材確保のために年収条件を柔軟に検討する可能性があります。
• ヘッドハンティングや引き抜きの場合: あなたの能力が外部から高く評価されている証であり、多くの場合、現職以上の好条件が提示されます。

逆に年収が現状維持、または下がる可能性も理解しておく

一方で、転職が必ずしも年収アップに繋がるわけではないことも理解しておく必要があります。以下のような場合は、年収が現状維持、あるいは下がる可能性も十分に考えられます。

• 未経験の業界や職種へキャリアチェンジする場合
• ワークライフバランスを重視し、残業の少ない働き方や時短勤務などを選択する場合
• 大手企業から中小企業やベンチャー企業へ移る場合（ただし、将来的な成長性やストックオプションなどに期待できることもあります）
• 地方へのUターン・Iターン転職で、都市部との給与水準に差がある場合

年収が下がる場合でも、それ以上に得られる価値（やりがい、成長機会、働きやすさなど）があるのであれば、一概にネガティブな転職とは言えません。

自分の「市場価値」と「適正年収」を把握する方法

年収アップを目指す上で、まず重要なのは自分自身の「市場価値」と、それに見合う「適正年収」を客観的に把握することです。

1. これまでのキャリアの棚卸し: 具体的な業務経験、習得したスキル、 quantifiable（数値化できる）な実績などを詳細にリストアップします。
2. 転職サイトの年収診断ツールや公開求人の給与レンジを参考にする: 多くの転職サイトでは、簡単な情報を入力するだけでおおよ目の年収相場を診断できるツールを提供しています。また、類似の職務内容の求人情報に記載されている給与レンジも参考になります。
3. 転職エージェントに相談する: キャリアアドバイザーは、様々な業界や職種の最新の市場動向や給与水準に関する情報を持っています。客観的な視点から、あなたのスキルや経験に見合う年収レンジについてアドバイスをもらえます。
4. 同業他社で働く知人などから情報を得る（慎重に）： もし信頼できる知人がいれば、業界の給与水準について大まかな情報を得ることも一つの方法ですが、個人情報に関わるため、聞き方には十分な配慮が必要です。

年収アップを勝ち取るための具体的な戦略と交渉術

年収アップを実現するためには、戦略的なアプローチと適切な交渉術が求められます。

• 交渉のタイミング: 一般的には、内定通知を受け、企業から具体的な労働条件が記載された労働条件通知書（採用条件通知書）を提示された後が、交渉を始める適切なタイミングです。内定承諾前に行うのが基本です。
• 準備すること:
  • 希望年収額とその明確な根拠: なぜその金額を希望するのか（自身の市場価値、前職の給与、応募企業への貢献見込み、生活に必要な額など）を論理的に説明できるように準備します。
  • 最低希望ラインの設定: これ以下では入社が難しいという最低ラインを自分の中で決めておきます。
• 伝え方のポイント:
  1. まずは内定をいただいたことへの感謝の気持ちを丁寧に伝えます。
  2. 謙虚な姿勢で、「大変恐縮ですが、年収についてご相談させて頂きたい点がございます」といった形で、あくまで「相談」というスタンスで切り出します。
  3. 希望額とその論理的な根拠を具体的に説明します。感情的にならず、客観的なデータや事実に基づいて冷静に伝えましょう。
  4. 企業側が提示した年収額の理由も丁寧に確認し、理解しようとする姿勢を見せることが大切です。
  5. もし希望年収に届かない場合でも、年収以外の条件（賞与の算定基準、住宅手当、役職、福利厚生など）で調整できないか相談してみるのも一つの方法です。
• 情報収集: 応募企業の給与水準や業界平均を事前にリサーチしておくことは、交渉を有利に進める上で非常に重要です。
• 実績のアピール: 面接の段階から、あなたのスキルや経験が企業にとってどれほどの価値があるのかを具体的にアピールし、「この人材ならこの年収を払う価値がある」と企業に認識させることが、交渉の土台となります。

年収アップの相場に影響を与える「年齢」や「業界」の要素

転職による年収アップの可能性は、年齢や業界によっても傾向が異なります。

• 年齢:
  • 20代: ポテンシャル採用も多く、大幅な年収アップは難しい場合もありますが、第二新卒などで未経験分野に挑戦し、将来的な成長を見据えるケースもあります。
  • 30代: 即戦力としてのスキルや経験が評価されやすく、キャリアアップに伴う年収増が期待できる年代です。マネジメント経験なども交渉材料になります。
  • 40代以降: 高度な専門性や管理職としての実績が求められ、これまでのキャリアに見合う高い年収を得られる可能性があります。一方で、役職定年などで年収が下がるケースも考慮が必要です。
• 業界: IT・情報通信、コンサルティング、金融（専門職）、医療（専門職）といった業界は、比較的給与水準が高い傾向にあります。一方、サービス業や一部の製造業などでは、給与水準が伸び悩むケースも見られます。ただし、同じ業界内でも企業によって給与体系は大きく異なります。

年収アップだけが転職の目的ではない

年収アップは転職における魅力的な要素の一つですが、それが全てではありません。

• 仕事のやりがいや自己成長の機会
• ワークライフバランスの改善
• 良好な人間関係や働きやすい企業文化
• 社会貢献度の高い仕事

など、年収以外の「非金銭的報酬」も、仕事の満足度や人生の豊かさに大きく影響します。短期的な年収アップだけでなく、長期的なキャリアプランや自分自身の価値観と照らし合わせ、総合的に判断することが後悔のない転職に繋がります。

まとめ：転職による年収アップの「相場」は一概には言えないが、自身の市場価値を高め、適切な戦略と交渉で、より良い条件を勝ち取ることは可能。ただし、年収以外の要素も踏まえ、納得のいくキャリア選択を。

転職における年収アップの「相場」は、個々の状況によって大きく異なるため一概には言えません。しかし、自身の市場価値を客観的に把握し、これまでの経験やスキルを効果的にアピールすること、そして適切なタイミングと方法で年収交渉に臨むことで、より良い条件を勝ち取る可能性は高まります。

ただし、年収という一面だけでなく、仕事内容、働く環境、将来のキャリアパスといった様々な要素を総合的に考慮し、自分にとって本当に価値のある、納得のいくキャリア選択をすることが最も重要です。

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岩下隼人

ロイヤル合同会社　代表

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ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。