投資 攻略
PR

村上ファンドと新生銀行の攻防|SBIによる歴史的TOBの裏で「物言う株主」が果たした役割

岩下隼人
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

日本の金融業界を震撼させた、2021年のSBIホールディングスによる新生銀行(当時)への「敵対的TOB(株式公開買付け)」。この歴史的な買収劇は、ネット金融の雄であるSBIと、大手銀行である新生銀行の経営陣との壮絶な戦いとして報じられました。

しかし、この物語の裏側には、勝敗の行方の「鍵」を握っていた、第三のプレイヤーがいました。それが、”物言う株主”として知られる「旧村上ファンド系」の投資家たちです。

「なぜ、銀行の買収劇に村上ファンドが?」

「彼らは、一体どんな役割を果たしたの?」

この記事では、株式投資を始めたばかりの初心者の方にも分かりやすく、この複雑な買収ドラマを紐解きながら、大株主が持つ影響力の大きさと、そこから私たちが学べる重要な教訓を解説していきます。

スポンサーリンク

なぜ新生銀行はターゲットになったのか?

まず、なぜSBIは新生銀行に買収を仕掛け、そして村上ファンド側もこの銀行に注目していたのでしょうか。その理由は、当時の新生銀行が抱えていた、2つのユニークな特徴にありました。

① 「公的資金」という重い足かせ

新生銀行の前身は、経営破綻した日本長期信用銀行です。その再生のために、国は多額の**公的資金(私たちの税金)**を投入しました。国(預金保険機構など)は、新生銀行の大株主として、いつかその資金を高い株価で回収したいと考えていましたが、株価は長年低迷。この「公的資金を返済しなければならない」という命題が、経営の大きな足かせとなっていました。

② PBR1倍割れという「極度の割安感」

株価が低迷していた結果、新生銀行のPBR(株価純資産倍率)は、0.3倍前後という極端に低い水準で放置されていました。これは、会社の解散価値の3分の1程度の値段で会社全体が買えてしまうということを意味し、買収を狙うSBIや、割安株投資を得意とする村上ファンド側にとって、非常に魅力的なターゲットに映ったのです。

SBIの「敵対的TOB」と新生銀行の「買収防衛策」

2021年9月、SBIホールディングスは、新生銀行の経営陣に事前の相談なく、TOB(株式公開買付け)を開始すると発表しました。これは、経営陣の意に反して経営権を取得しようとする「敵対的TOB」であり、日本の銀行業界では極めて異例の事態でした。

これに対し、新生銀行の経営陣は猛反発。「SBIのやり方は乱暴だ」として、TOBに対抗するための「買収防衛策(ポイズンピル)」の導入を決定し、株主の承認を得るために臨時株主総会を開くことを決めます。

買収防衛策とは、敵対的な買収者に対してだけ、不利な条件(例えば、新株を市場価格より安く発行するなど)を突きつけ、買収を困難にさせる仕組みです。まさに、会社の命運を賭けた最終決戦の火ぶたが切られました。

「鍵」を握った村上ファンド – キングメーカーの決断

この臨時株主総会で、買収防衛策が可決されるか否か。その運命は、議決権を持つ株主たちの投票にかかっていました。

そして、その票の行方を左右する、2つの大株主がいました。一つは、約22%の株式を持つ国(預金保険機構など)。そしてもう一つが、当時6%超の株式を保有していた旧村上ファンド系の投資家たちでした。

彼らがどちらに投票するかで、日本の大手銀行の未来が決まる。まさに、村上ファンド側は勝敗の行方を決める「キングメーカー」の立場に立ったのです。

彼らの決断は、アクティビストとしての合理的な判断に基づいたものでした。

「買収防衛策は、経営陣の保身につながり、株主の利益を損なう」

「SBIが提示するTOB価格の方が、現在の株価より高い」

この論理から、彼らが新生銀行経営陣の買収防衛策に「反対」することは、市場関係者の間では確実視されていました。

自らの敗北を悟った新生銀行の経営陣は、臨時株主総会を直前で中止。買収防衛策を撤回し、SBIの軍門に下ることを決断します。SBIによるTOBは成功し、後に新生銀行は「SBI新生銀行」として、新たなスタートを切ることになったのです。

この買収劇から個人投資家が学ぶべきこと

この歴史的な買収劇は、私たち個人投資家に多くの重要な教訓を与えてくれます。

教訓①:TOBは銀行にさえ起こりうる

かつては「お国のもの」という意識が強かった銀行でさえ、TOBの対象となり、経営体制が大きく変わる時代になったという事実。これは、株式市場に「絶対の安定」は存在しないことを教えてくれます。

教訓②:大株主の存在が、会社の運命を左右する

この事例から学ぶべき最大の教訓は、会社の運命は、経営陣の意向だけで決まるわけではないということです。大株主、特にアクティビストや、このケースでは国といった存在が、重要な局面でどのような判断を下すのか。企業の株主構成をチェックする習慣は、投資家にとって不可欠なスキルです。

教訓③:「買収防衛策」は波乱のサイン

もしあなたが投資している企業が「買収防衛策」の導入を発表したら、それは要注意です。経営陣と大株主の間で深刻な対立が起きているサインであり、今後、株価や経営方針が大きく変動する可能性があることを示唆しています。

まとめ

SBIによる新生銀行の買収劇。その主役はSBIと新生銀行の経営陣でしたが、その裏では、旧村上ファンド系が「キングメーカー」として、物語の結末を決定づける極めて重要な役割を果たしていました。

この事例は、株主が持つ「一票」の重みと、その集合体がいかに大きな力を持つかを、私たちに鮮やかに示してくれます。

企業のニュースを読む際には、その裏側で各プレイヤーがどのような思惑で動いているのか、特に「大株主」の顔ぶれとその意向にまで目を向けること。それだけで、株式投資の世界がより立体的に、そして面白く見えてくるはずです。

スポンサーリンク
ABOUT ME

Warning: Undefined array key 0 in /home/royal0530/royalfund.xyz/public_html/wp-content/themes/jinr/include/shortcode.php on line 306
岩下隼人
岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
スポンサーリンク
Recommend
こちらの記事もどうぞ
記事URLをコピーしました