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日本のポイズンピル事情。導入の歴史から近年の「廃止」トレンドまでを解説

岩下隼人
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会社の買収防衛策として知られる「ポイズンピル」。この仕組みが元々は1980年代のアメリカで生まれたものであることをご存知でしょうか。

「それが日本では、どのように使われ、どのような歴史をたどってきたの?」

「今、日本の会社はポイズンピルをどう考えているんだろう?」

この記事では、そんな疑問にお答えすべく、日本におけるポイズンピルの歴史、その特徴、そして最新の動向まで、全体像を初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

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日本でポイズンピルが広まった「きっかけ」

日本で「ポイズンピル」という言葉が一気に広まり、多くの企業がその導入を検討し始める直接的なきっかけとなったのが、2005年に起きたライブドアによるニッポン放送・フジテレビ買収劇でした。

当時、IT企業のライブドアが、日本の主要メディアであるフジテレビの経営権を狙い、その親会社であったニッポン放送に敵対的TOB(株式公開買付け)を仕掛けたこの事件は、日本社会に大きな衝撃を与えました。

この一件により、多くの企業経営者が「いつ、自社が乗っ取りのターゲットになるか分からない」という強い危機感を抱き、自社を守るための「買収防衛策」として、アメリカで先行していたポイズンピルの導入に高い関心を示すようになったのです。まさに、2005年は日本の「買収防衛元年」とも言える年でした。

日本のポイズンピルの特徴:アメリカとの違い

日本に輸入されたポイズンピルは、本家アメリカのものをそのままコピーするのではなく、日本の法制度や企業文化に合わせて、独自の特徴を持つようになりました。その最大の違いは、「株主の権利」をより重視している点です。

アメリカ式

取締役会の決議だけで迅速に導入できることが多く、経営陣にとっては非常に使いやすく強力な武器となります。

日本式

一方、日本では経営陣の独断で強力な防衛策が発動されることへの警戒感が強く、以下のような「歯止め」がかけられるのが一般的です。

  1. 株主総会の承認が必要ポイズンピルを導入したり、数年ごとに更新したりする際には、事前に株主総会を開き、株主から過半数の賛成を得る必要がある「事前警告型」と呼ばれるタイプが主流となりました。
  2. 独立委員会の設置「経営者が自分の地位を守りたいだけなのでは?」という批判を避けるため、社外取締役などの独立したメンバーで構成される**「独立委員会」**を設置。ポイズンピルを発動すべきかどうかの判断に、この委員会の客観的な意見を求める仕組みを取り入れる企業が多くなりました。

このように、日本のポイズンピルは、経営陣が勝手に使えないよう、株主の意思を尊重する慎重な運用が特徴となっています。

日本のポイズンピル史を語る上で欠かせない2大事件

日本のポイズンピルの考え方を方向付けた、象徴的な2つの裁判事例があります。

事例1:ニッポン放送 vs ライブドア事件(2005年)

ライブドアの買収に対抗するため、ニッポン放送はポイズンピルの発動を試みました。しかし、裁判所はこれを「経営者の保身が主たる目的」と判断し、発動を差し止める決定を下しました。

【教訓】ポイズンピルは万能ではなく、株主の利益を無視した発動は司法に認められない、という重要な前例となりました。

事例2:ブルドックソース事件(2007年)

投資ファンドによる敵対的買収に対し、ブルドックソースは買収者だけを狙い撃ちにする、非常に強力な「差別的ポイズンピル」を用意。これについて最高裁判所は、買収者が会社の価値を著しく損なう「濫用的買収者」である場合には、このような防衛策も例外的に許される、という画期的な判断を示しました。

【教訓】買収者の目的や素性によっては、強力な防衛策も正当化される道があることが示されました。

そして現在へ:相次ぐ「ポイズンピル廃止」の大きな流れ

2000年代後半に導入ブームが起きた日本のポイズンピルですが、その状況は近年、大きく変化しています。2010年代後半から現在にかけて、多くの企業がポイズンピルの継続をやめ、「廃止」するという大きな流れが起きているのです。

その背景には、以下のような理由があります。

  1. 機関投資家の反対国内外の年金基金や投資信託といった大株主(機関投資家)が、「ポイズンピルは株主の権利を制限し、健全な新陳代謝を妨げる」として、株主総会で継続議案に反対票を投じるケースが急増しました。
  2. コーポレート・ガバナンス重視の潮流企業経営の透明性や株主との対話を重視する「コーポレート・ガバナンス」の考え方が、日本でもスタンダードになりました。その中で、閉鎖的なイメージのあるポイズンピルは時代に合わない、と考える企業が増えたのです。
  3. 経営の自信の表れ防衛策に頼るのではなく、高い企業価値と成長性を維持し、株主からの支持を得ることこそが最大の買収防衛策である、という考え方が浸透してきたことも大きな要因です。

まとめ

  • 日本のポイズンピルは、2005年のライブドア事件をきっかけに、多くの企業で導入が始まりました。
  • その特徴は、株主総会の承認を必要とするなど、本家アメリカに比べて株主の権利を重視した慎重な運用がされてきた点にあります。
  • ライブドア事件やブルドックソース事件といった歴史的な裁判を経て、その有効性や限界が議論されてきました。
  • そして現在は、株主との対話を重視する時代の流れを受け、多くの企業が**ポイズンピルを「廃止」**しており、その役割を終えつつあると言えます。

日本のポイズンピルの歴史は、日本企業と株主の関係性が時代と共にどう変化してきたかを映す、興味深い鏡なのです。

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岩下隼人
岩下隼人
ロイヤル合同会社 代表
ロイヤル合同会社を設立して、新しいことに挑戦している人や、頑張っている会社を応援中。ときどき取材記者(ライター)。
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